H警官は携帯電話がバレないようにと留置施設にある掃除用具入れという部屋に持ち込んだ。

<携帯電話を持ち込んでメールチェックしたり、プロ野球の結果、エロ動画サイト「E」を見ていました>

 供述調書によれば、午後9時6分から9時39分まで携帯電話の閲覧履歴が残っていたという。大阪府警関係者がこう嘆く。

「収容されている容疑者の逃走防止、不慮の事故などを防ぐため、高度な緊張感が求められる。携帯電話を持ち込んで容疑者に貸したり、ネットなどで事件に関する情報を与えてはいけないので、厳格に禁じられている。日本のどこの警察署でも同じだ」

 だが、富田林署では携帯電話の持ち込みは常態化していたようだ。H警官の供述調書にはこう記されていた。

<相勤の係長が休憩になれば常習的に携帯電話を持ち込んでいました>

 そして、H警官の供述調書には「証拠隠滅」をするような話もある。

<樋田の逃走が発生した当時は携帯電話を持ち込んでいたことは黙っておこう、その話をすれば何らかの処分がある。(中略)通常勤務をしていたように説明をしました。携帯電話を持ち込んでいたことがバレないように、8月12日の送受信したメールも消した>

 このような勤務についてH警官はこう反省の弁を述べていた。

<緊張を保たなければいけない業務なのにいい加減な気持ちだった>

裁判で弁護士は当時、午後9時までに樋田被告との面会を終えて、富田林署の正面玄関から帰っていたことが明らかになった。

 当時、13人の当直担当者が富田林署に詰めていた。

H警官の上司の供述調書にはこう懺悔の弁が記されていた。

<弁護士が正面玄関から出て行ったことに気づきませんでした。被留置者が逃走する等想像もしていませんでした。当直担当者も気がつかなければなかったと思います。誰も気がつかなかったことは私たちにも責任がある>

そして、樋田被告の逃走がわかってから、富田林署が110番通報したと記されている。警察署が容疑者に逃げられたと警察に110番通報、まさに「お笑い」としかいいようがない。

 樋田被告は各地で万引きなど犯罪を重ねながら逃走。延べ4万2千人もの警官を投入するという前代未聞の逃走劇だっただけに、どんな懺悔をしても、使われた多額の税金は戻らない。(今西憲之)

※週刊朝日オンライン限定記事)