警視庁本部(c)朝日新聞社
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「飲食のたびに金を渡されるようになった」

 調べに対しこう答え、男はうなだれたという。在日ロシア通商代表部の幹部職員の求めに応じて、会社の営業秘密を不正に入手したとして、警視庁公安部は元ソフトバンク社員の荒木豊容疑者(48)を不正競争防止法違反容疑で逮捕した。

 それと同時に警察当局では、外交官と既に帰国した別の元代表部職員の2人について、警視庁に出頭するようロシア大使館に要請している。

 警視庁によると、荒木容疑者は2019年2月に当時勤務していたソフトバンクの会社サーバーに接続。同社の営業秘密を含むデータ2点を記憶媒体に複製した不正競争防止法違反の疑いが持たれている。容疑を認めていて「小遣い稼ぎのためにやった」とも供述しているという。荒木容疑者はソフトバンクに在籍当時、自社の通信設備のインフラ整備を主に担当していたという。

「外交官に扮したロシアスパイのいつもの手口だが今回は取り込まれたのが通信会社員だったというのがカギ」(捜査関係者)

 捜査関係者によると、そもそもロシアスパイは対象国内で作業を行うのが特徴で、これまで日本国内でも自衛官が主に対象とされてきたという。2015年には防衛省幹部が「教範」と呼ばれる内部資料を在日ロシア大使館員に提供し、幹部が書類送検されている。

 ロシアのスパイが狙うのは、自衛隊の関係者だけではない。2005年には、半導体大手社員だった男性が、在日ロシア通商代表部員(当時)に軍事転用可能な半導体データを提供した見返りとして現金を受け取ったなどとして背任容疑で書類送検されている。

 2004年に千葉市であった電気機器関連の展示会。代表部員は「イタリア人のバッハ」を名乗って「日本でコンサルタントをやりたいので是非とも力を貸してほしい」と男性に近づいたのだ。その後は飲食店で接触を重ね、次第にからめとられていったのである。男性は警視庁の調べに「金が欲しかった」と話したが、相手がロシア人との認識はなかったという。

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