で、今回の断捨離だ──。わたしはまず床に積みあげている本の整理にとりかかった。それらは寄贈本、雑誌、資料、自分の本(出版されたときに十冊ほどは贈呈されるが、それでは足りないから自費で五十冊は購入する)だが、とりあえず必要のないものは段ボール箱三つに詰めてクロゼットに押し込んだ(クロゼットはほぼ満杯で、奥になにがあるのかは不明。いつか整理をするときが怖い)。

 次に、衣類の塚を崩しにかかった。ズボン、靴下、ポロシャツ、トレーナー、Tシャツと、上から剥(は)がして隣の寝室に放っていくと、なぜか知らん、倒れた扇風機が現れた。夏からここで寝ていたらしい。

 またひとつ衣類の塚を崩すと、大きなボストンバッグが出てきた。中身は葉巻の木箱とパイプ煙草(たばこ)の空き缶数十個だ。空き缶は不燃ゴミの日にしか出せないから、これも寝室に放る。

 そうして二時間──。懸命の断捨離を終え、床に掃除機をかけたのち、隣の寝室に入ると万年床のそばに新たな塚ができていた。捨てるゴミ袋はたったひとつ。今回もまた、モノを右から左に移しただけだった。慮るに、わたしの二部屋はすでにオーバーフローしているのだ。よめはんにコーヒーを淹(い)れて、

「ね、ハニャコちゃん、応接間におれの本や資料を置いてもええかな」縷々(るる)事情を説明し、交渉すると、

「ピヨコの部屋には胡蝶蘭を置いたげてるでしょ」

 すげなく却下された。

週刊朝日  2019年12月6日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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