異界の光景から、現実に視座を移しましょう。この夏の連日の暑さに、熱中症になったから言うのではないですが、来年の東京オリンピックの暑さ対策はできているんでしょうかね。この間、京都で38度、外国の観光客がへたばっていました。日本の気候状況を考えると、真夏に開催するという何かメリットがあるんですかね。

 関西の人に聞くと、オリンピックは全く盛り上ってないと言います。東京も組織委員会や一部のメディアがひとり盛り上げているだけで、僕自身は全く盛り上ってくれません。オリンピックがなぜ「復興五輪」になるのか、ちょっと理解できません。オリンピックでワーワー騒ぐことが福島の復興になると考えているんでしょうかね。このオリンピックで落ちるお金は福島ではなく、誰のところに落ちて、誰を復興させるんでしょう。

■瀬戸内寂聴「九十七歳に酷暑、さすがにこたえた」

 ヨコオさん

 何とまあ、この暑さ! 徳島生れ、育ちの私は、暑さには強い筈だけれど、今年のこの暑さは、さすがにこたえます。満九十七歳にもなって、干からびて、暑さなんかこたえないかと思っていたら、とんでもない!

「ああ、早く死にたい!」

 と叫んでしまう。人間は産れる時は母親の体内で、うとうとしているだけで、自分の存在の意味など、皆目わからないのでしょう。それともヨコオさんのような天才は、産れる前からの記憶があるの? もしあるなら、あなたが死ぬ前に、それを絵で描いておいて下さい。私は、あの世から必ずそれを見たいものです。

 この暑さで体も頭もボーッとしているので、生きているのか、死んでいるのかわからなくなりました。今年で九十八回めの夏を迎えたわけですが、こんなに暑さの体にこたえた夏はかってありません。出家して二、三年後、シルクロードの旅に加ったことがあります。その時、八月のど真中で、連日、シルクロードは三十八度以上でした。物好きな人々の集りで、みんなその旅ではじめて顔を合せたような人ばかりでした。中に、京都から来た六十前の夫婦者がいて、その二人は、「暑さよけ」という新製品のマントを持っていました。それを着た二人と歩くと、シャグシャグと乾いた音がうるさくてなりません。ちょっと貸してくれましたが、音がうるさくて、とても着てはいられなかった。

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