幕開けの「あさってベイビイ」は、ブギ・ピアノで知られるビッグ・メイシオの「Worried Life Blues」やその派生曲「Trouble No More」などを思わせる。

 内田の豪快なスライド・ギターをフィーチャー。歌詞も、去っていった恋人への思いを歌った原曲とは違って、“いわく云い難い 毎日”を嘆きながら、明後日には“何もかもが良さそう”と願望を込めて歌っている。

 同様にブルースに取りつかれた嘆きを投げやりに歌った「ブルースがなぜ」。歌詞にはマディ・ウォーターズ、ザ・ローリング・ストーンズの名も登場。シカゴに移り住んだブルース・マンたちの南部への郷愁を物語る“牛小屋”が折り込まれているのも憎い。

 マディ・ウォーターズの「I Can’t be Satisfied」を下敷きにした「腹のほう」では、食卓に並ぶおかずの魚の半身、いつも尻尾ばかりで“出せ 腹のほう”と恨みと怒りを込めて歌っているのがユーモラスだ。

 「バットマン・ブルース」は、女を寝取られた男の嘆きや焦りを歌ったリトル・ウォルターの「Boom Boom Out Goes The Lights」をアレンジするうち、“バットマン”風のフレーズになったことから「バットマン・ブルース」に。居場所のなくなった“こうもり”の嘆きを歌う。

 ブルース曲に欠かせないセックスの妄想や願望を歌った「ヘビが中まで」や「闇に無」も聴き逃せない。後者のタイトルに首をかしげたが、“今夜、やりたい!”と歌われる「I’m In The Mood」に“ヤミニム”と聞こえるところがある。“空耳アワー”的展開に思わず笑いを浮かべ、納得した。

 内田勘太郎作詞、作曲の「オイラ悶絶」は「Rollin’ and Tumblin’」が下敷きのようで、おかしな夢に取りつかれた男の話にしている。

 ザ・ローリング・ストーンズはじめロック・グループを通じて、ブルースに興味や関心を持った方も少なくないはずだ。ブギ連のブルースへの取り組みには、ブルース・ファンなら思わずニヤリとさせられる。改作、創作の手腕に感心させられるに違いない。

 もっとも、日常の出来事や葛藤を描き、時に突拍子もない表現が想像力をかきたてる甲本の歌詞。明快な歌唱。内田による多彩な音楽性。『ブギ連』は、ブルースに親しみがなくても理屈抜きで楽しめる。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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