TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回はあるときの「村上RADIO」について。
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夏至も近くなった日曜の夜、村上春樹さんがDJを務める「村上RADIO」の第6回がオンエアされた。ラジオから7時の時報がポーンと鳴って、「The Beatle Night」が始まった。
「今回は範囲をぐっと絞って、『ラバー・ソウル』以前のものに限りました。でも素敵な曲ばかりですよ」(2019年6/16放送)
春樹さんがビートルズの青春を語り、世界でコピーされたカバー曲をかける。いったいどんな曲が選ばれるんだろう……。
「初期のビートルズの音楽には、大きく息を吸い込んで吐いたら、それがそのまま素敵な音楽になっていたみたいなナチュラルな感覚があります」と語る春樹さん。初めて聴いたビートルズは「プリーズ・プリーズ・ミー」。「FENで聴いて『これはすごい』と一発で思いました。何がどうすごかったか? それは今でもまだよくわからない。ただ『この音楽の響きはこれまでにはなかったものだ』ということだけはきっぱりと確信できました」
僕は放送後も繰り返し「村上RADIO」を聴く。
「ギリシャのスペッツェスっていう島に住んで、そこで何にもせず、ただぼーっとしていました。日本から持ってきた何本かのテープの中に、たまたまビートルズの『ホワイト・アルバム』があって、海岸でのんびり釣りなんかしながら、毎日そのカセットテープを聴いていました。近所の猫たちがまわりにいっぱい集まってきて、僕がたまに釣り上げると、みんなでわっととびかかってくるんです。で、まあ、しょうがないから魚がかかるたびに猫たちにあげていました。そんな毎日を送りながら『ホワイト・アルバム』を浜辺で聴いていると、音楽がね、不思議なくらい心に染みてくるんです。これ、いいなあ、と実感しました。そしてビートルズの音楽にインスパイアされてというか、その年の冬に長編小説を書き始めました。それが『ノルウェイの森』です」