気味が悪いので電話が切れたあとすぐ市役所のホームページを確認した。だが、「保険課」などという部署は当然のっていない。また市役所に電話しようにも土曜日では連絡がつかない。

 いや待てよ。連絡がつかないからこそ、相手は土曜を狙ってかけてきたのではないか? 市役所が閉まっていれば、“ニセ職員”であることはバレない。あーあ。予感的中。後日、市役所に確認を入れてみたら、同時期、同様の手口で還付金詐欺の電話が市内で多数かけられていることがわかった。

 しかし私の場合、相手は1分も話さないうちに退散していった。

「それは詐欺師というものは、まず電話に出た人間がだませる相手かどうか確認してから、次の行動に出るようにしているからです。少し話してみて『これはこちらのウソには引っかからないな』と思ったら、すぐに向こうから電話を切ります。詐欺師の側からしてみれば、引っかかりやすい人間であれば誰でもいいんです。とにかく効率よく稼ぐために無数の電話をかけまくっているのです」と教えてくれたのは、テレビでもおなじみの詐欺・悪徳商法評論家の多田文明さんだ。多田さんは、詐欺と思しき電話がかかってきた場合は絶対こちらから話を長引かせないことが大切だという。

「『おかしいな』と思うことがあっても、不用意に相手へ質問などをしてはいけません。電話を受ける側はひとりですが、電話をかけてくる側は詐欺の組織。人をだます知恵のかたまりなのです。ひとたび質問などしようものなら、逆にこちらの情報をどんどん吸い上げられることになりかねません」

 相手には人をだますためのマニュアルがあり、たくさんのシナリオがある。こちらは初めから圧倒的に不利なのだ。「電話を受けてしまったときは、『時間がないので』と早々に電話を切ることです」(多田さん)

 そして立正大学文学部教授で犯罪学者の小宮信夫さんも語る。「詐欺師サイドは“閉店セールのあおり”と同じ感覚で人の心を動かそうとします。『今日じゃなきゃダメ』『いま行動すれば間に合うから』と。高齢の方になればなるほど電話に出ないのは失礼だと、ついつい電話に出てしまいがち。人と話したいという気持ちもありますからね。しかしお金がらみの話が出たら、やはり急速に進めないことが肝心です。『こちらからかけ直します』。そのひとことが大切です」

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