詐欺の手口は日々、形が変わっていく。ゆえに自分はだまされないと慢心しないことも重要だ。「皆さんよくオレオレ詐欺=自分の息子になりすましてお金を請求してくることとお思いですが、いまは息子だけではありません。甥や孫をかたって電話をしてくる場合もあります」と多田さん。

 最初のうちはお金の話は出してこない。まずは息子だ、甥だ、孫だと相手に信じ込ませてから、次のステップに上がる。最近のオレオレ詐欺には「フルーツ詐欺」といったものもあるという。初めは「もしもし、オレだけど」と息子などをかたって電話をかけてくる。そしてフルーツを農園から送るねと言って親を喜ばせ、その後に農園や配送会社をかたる人間が電話をかけてきて親から住所を聞き出す。その後再びニセ息子が電話を入れ、「実は会社のお金を使い込んで……」と泣きつき、お金をだまし取るのだ。

「桃などの旬の果物を送るという話で親をワッと喜ばせ、息子の声のおかしさなどに気づきにくい状況を作っておくという、巧妙な手口です」(多田さん)

 また息子や家族を装い、「会社のお金を使い込んだ。いくらなら用意できる?」などと事前に現金の保管状況などを確認する「アポ電(アポイントメント電話)」が都内で急増しているのは周知の事実。「2016年から通報件数が1万件ずつ増え、18年の通報件数は3万件を超えました。アポ電のあと被害者宅に押し入り、現金を奪い取る強盗事件が連続発生しています。アポ電はほとんど固定電話にかかってきます。固定電話に関しては留守番電話設定にする、あるいは自動通話録音機の活用をおすすめします」と警視庁犯罪抑止対策本部企画・統計担当管理官の山上嘉人警視は言う。

 留守番電話に何かメッセージが入っているときは、内容を聞いてから必要なものにだけ、こちらから折り返し電話する。

「家に鍵をかけるように、電話にも鍵をかける。危険な状況を回避するためには、やはり犯人と直接通話しないよう心がけることが、きわめて重要です」(山上警視)

(ライフジャーナリスト・赤根千鶴子)

週刊朝日  2019年4月19日号より抜粋