次はいよいよ中上級コースの25mの壁だ。

 下からは垂直に切り立った壁が覆いかぶさるように見える。

「さあ、行きましょう!」。そう声をかけられ、いざスタート。途中までは傾斜があるので、登りやすい。

「ここからですよ!」。下から声がかかる。90度の壁が立ちはだかるようだ。アックスを打ち込む腕にも力が入る。身体を安定させることが大事。慎重に、落ち着いて。何度も自分に言い聞かせる。「身体を安定させ、脚で登ることが大事ですよ」とのアドバイスを思い出した。しだいに無駄な力が抜けてきた。身体が少しずつ上へ向かっていく。もうすぐだ。あと少しというときこそ、落ち着かなければならない。右腕、左腕、右足、左足、上方確認。

 一般の初心者が30~40分かかるところを約20分で登頂だ。

「OK! こっち向いて~」と声がしたので、アックスを片手に持ち、手を震えるよう振って応えた。

 その震えは疲労からか、いや、達成感からだったとしておこう。

 身体の動きに気を使うことで、シニア世代も氷の壁は登れると思う。ただし、必ずガイドなどの専門家と一緒に行うことが大事だ。

(登って文章を書いた人=本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2019年3月8日号