京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師
京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師

 お風呂で熱いお湯につかると体がかゆくなったという経験がある人は少なくないでしょう。そのお湯の温度は43度以上とされ、かゆみと痛みの意外な関係が原因だといいます。京都大学医学部特定准教授で皮膚科医の大塚篤司医師が解説します。

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 世界で最も辛い唐辛子「キャロライナ・リーパー」をご存じですか?

 キャロライナ・リーパーは、ゴースト・ペッパーとレッド・ハバネロの交配種で、尾の形が死に神(リーパー)の大鎌に似ていることからその名がつけられたそうです。私も以前は辛いものが大好きで、辛口カレーに激辛パウダーを追加して食べるほどでした。しかし、辛さの極限を追求していった結果、辛いものを食べると体調を崩してしまうおなかになりました。自分の健康管理が苦手な医者は多いですが、私は無理をして痛い目にあった医者の一人です。

 話が脱線しましたが、今回は辛さの記事ではありません。実は「かゆみ」のお話です。辛さとかゆみ、そして痛み、驚くべきことにこれらの感覚は共通したメカニズムを利用して脳に信号を伝えているのです。

 みなさんも、かゆくてかゆくて、痛くなるまでかきむしるとかゆさが緩和された経験があるのではないでしょうか。これは脱感作と呼ばれる現象が原因と考えられており、痛みが加わると「カプサイシン受容体」の反応性が低下するためです。

 まず、カプサイシン受容体について説明しましょう。

 カプサイシンは、トウガラシの辛み成分として有名です。カプサイシンは辛さを脳に伝える際、末梢神経に作用します。末梢神経にはカプサイシン受容体という受け手が存在しています。カプサイシンがカプサイシン受容体に作用すると、末梢神経が辛さとして脳に伝えます。

 このカプサイシン受容体はイオンチャネルと呼ばれるもので、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを通すいわゆる「窓の役割」があります。細胞は、細胞の外と中の物質を交換するのに窓を利用します。この窓はそれぞれ特定の成分に対応した窓があり、例えば水の出し入れをする窓、ナトリウムやカルシウムなどのイオンを出し入れする窓があります。細胞の中ではイオンの濃度がシグナルとして重要となります。特にカルシウムの濃度は大切で、カルシウム濃度が上がると細胞は活性化します。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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かゆみとして脳に伝達