前座は全員テロリスト? 落語界の“虫ケラ”が翻した反旗 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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前座は全員テロリスト? 落語界の“虫ケラ”が翻した反旗

連載「ああ、それ私よく知ってます。」

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春風亭一之輔週刊朝日
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。JFN系FM全国ネット「サンデーフリッカーズ」毎週日曜朝6時~生放送。メインパーソナリティーで出演中です

イラスト:もりいくすお

イラスト:もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「反旗」。

【イラストはこちら】

*  *  *
 東京の落語家は、上から「真打ち」「二つ目」「前座」と身分制度がある。上の者には決して逆らってはいけない。『反旗』を翻すなんてとんでもねぇですだ、お代官さま。

「いいか! 前座は虫ケラなんだからな!」と、私が前座のとき、同じ前座の先輩から言われた。「じゃぁ、お前も虫ケラじゃねえか」と思ったが、根が利口なので「えぇ!? じゃ、兄さんみたいに噺も上手くて、気の利く前座も虫ケラなんですか!?」とヨイショ。

 すると先輩はちょっと嬉しそうに、「……いやいや(ニヤリ)、俺だって同じ虫ケラだよ。でもな、もうすぐ二つ目だからよ。あと半年したら地上に出て、大空に羽ばたいてやるんだよ!」と宙を見つめた。

「なるほど……兄さんはまるでセミですね!」と私。「そうなんだよ! セミなんだよ! もうすぐギラギラ輝く太陽の下で、俺はミンミン鳴くんだよ!!」と拳を握ったセミ人間。

 横で聞いてた二つ目の先輩が「セミか……じゃ、お前二つ目になったら1週間で死んじゃうなー」と冷静な分析。そのあとは、みんなで『羽化した後も長生きする虫』を調べ合った。なんて平和な職場だろう。ちなみにカブト虫も羽化後は1カ月程度しか生きないらしい。結論として人間が一番だ。

 ある大師匠は寄席の楽屋で前座が出したお茶を絶対に飲まなかった。

 私が地方の落語会でその師匠と一緒になったときのこと。師匠は楽屋でケータリング担当のバイトのお姉さんがいれたお茶を旨そうに飲んでいた。おかしいじゃないか? 私は思いきって聞いてみることに……。

私「師匠、お茶お飲みになるんですね?」
某師匠「好きだよ、お茶」
私「なんで寄席の楽屋ではお茶を飲まないんですか?」
某師匠「お前らのいれるお茶は不味いから」
私「……すいません。美味しくいれるよう稽古します……」
某師匠「美味しくても飲まない」
私「え? どうしてですか?」
某師匠「……実は俺な、前座の頃、嫌いな真打ちや意地悪な二つ目のお茶にゴミとか唾とか、その辺の綿ボコリとか入れて出してたんだよ(笑)」
私「……マジですか?」
某師匠「しょうがないだろ! 嫌いなんだから!」
私「(しょうがなくはないだろう)……ですよね」
某師匠「お前らもそんなことしてるんだろう!?」
私「いやいやいやいや!!」
某師匠「してるだろ! 『いやいや』じゃなくて、してるだろ! してるんだっ! 絶対にしてる!! な! してるな!!」
私「(してないよ)たまに……」
某師匠「なっ!!(嬉しそうに)だから俺は絶対に楽屋のお茶は飲まないの! わかるっ!?(笑顔)」
私「わかりました……でも師匠のお茶にそんなことしませんよ」
某師匠「(満面の笑みで)あのな……俺も昔、大嫌いな真打ちに今お前が言ったのと同じこと言ってたの(笑)。……そういうことだから!!」

 この話を思い出して、寄席の楽屋に行くと前座が全員テロリストに見えてきた。美味しくお茶を飲める真打ちになるために、下の者には優しくしよう。ただ嫌いな人に自分の唾を飲まれるのはかなり嫌だけどなぁ。

週刊朝日  2018年9月28日号


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春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!

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