――ただ、その自殺未遂事件が、夫の神津善行との縁をつないだ。20歳で婚約し、2年半後に23歳で結婚

 海から戻ってきて、どうしようって思った。誰に連絡しよう、パパやママや芸能界関係の人に連絡したら、大騒ぎになっちゃうって。頭に浮かんだのが、数少ない一般の友達の神津さんだったの。

 そのころに出入りしていた三木鶏郎さんの事務所に、神津さんもいたのね。でも、とくに親しいわけじゃなかった。

 神津さんに電話したら、すぐ来てくれて、テキパキと事後処理をしてくれた。それを見て、ああ、なんて頼りになる人だろうと思っちゃったのよね。

――1937年に喜劇映画「江戸ッ子健ちゃん」のフクちゃん役でデビュー。エノケン(榎本健一)、ロッパ(古川ロッパ)らと数多く共演し、天才子役として人気を集めた。

 道を歩いていても、お店に入っても、誰もが私の顔を知っている。物心ついたときから、それが当たり前だった。決して嫌ってわけじゃないんだけど、普通への憧れはあったわね。私はもう長いこと、重度の「普通になりたい病」を患ってるの。

 美空ひばりさんと大の仲良しだったんだけど、彼女も子どものころから世間に顔を知られていたでしょ。そのへんの感覚が言わなくてもわかり合えたから、気が合ったのかもしれないわね。ただ、彼女は私とバカな話をしていても、誰かが来ると、さっと大物歌手の顔になって「えっ、サインですか」ってなる。そういうところは「さすがだなあ。私とは違うなあ」って感心して見てたの。

 早く結婚したのも、奥さんになって子どもを育てて、普通の生活をしてみたかったから。でも、結婚するとき神津さんに「いつ仕事をやめればいいですか」って聞いたら、びっくりした顔をして「これからの時代は女性も結婚しても仕事をやめずに、自分の世界を持つべきだ。だから君と結婚したのに」って叱られちゃって。

 長女のカンナ、そのあと次女のはづき、長男の善之介が生まれてからは、妻、母親、芸能人の三足のわらじ。姑ともいっしょに暮らしてた。糖尿病だった姑のために、計算が苦手な私が、せっせとカロリー計算をしてたのよ。なるべく普通のお母さんでいたかったから、子どもたちが高校を卒業するまでは、毎朝早起きしてお弁当も作ってた。意地みたいなものもあったかもしれないわね。

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