大口病院は現在、「横浜はじめ病院」という名前に変わっている
大口病院は現在、「横浜はじめ病院」という名前に変わっている

 事件発覚から1年と10カ月──。横浜市の旧大口病院(現在は横浜はじめ病院)の入院患者ら48人が相次いで中毒死した事件で、逮捕されたのは、やはり疑惑の元女性看護師(31)だった。国内の犯罪史上、最悪の“毒殺”事件の突破口を開いたのは、ある女性捜査員の執念だった。

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  神奈川県警に殺人容疑で逮捕されたのは、旧大口病院に当時、勤務していた元看護師(現在は無職)の久保木愛弓容疑者(31)だ。7月9日には横浜地検に送検された。

「やっていません」と2016年9月の事件発覚以降、これまで容疑を頑なに否認し続けていた久保木容疑者の事情聴取は、一貫して捜査一課の女性捜査員が担当していたという。

 徐々に信頼関係を築いていき、久保木容疑者の言動に変化が見えてきたのは、今年春ごろだった。

「死にたい」と女性捜査員に打ち明けるようになったという。

「自殺されないよう、行動確認を徹底しつつ聴取を重ね、6月下旬に『私がやりました』と本人が認めた。今回ほど、取り調べの基本の大切さを痛感した捜査はなかった」(捜査関係者)

 16年夏から旧大口病院を舞台に相次いでいた48人の不審死というパンドラの箱が開いた瞬間だった。

 事件が発覚したのは16年9月20日、同院に入院していた八巻信雄さん(当時88歳)が謎の死を遂げたため、同院が県警に通報。県警が司法解剖した結果、体内から医療機器の消毒や医療者の手指の消毒などに用いられている殺菌消毒剤の「ヂアミトール(ベンザルコニウム塩化物液)」と同じ界面活性剤が検出された。

 また、その2日前に死亡した西川惣蔵さん(当時88歳)の体内からも同じ成分が検出された。

 ヂアミトールは4階のナースステーションに常備されており、県警は空の容器を押収した。

 久保木容疑者は、西川さんの点滴にヂアミトールを混入し、中毒死させた殺人容疑で逮捕された。

 捜査関係者の話によると、同容疑者は、八巻さんへの毒物混入も認めており、「入院患者20人ぐらいに対し、犯行を行った」と供述。11日には同時期に死亡した70代女性に対しても関与をほのめかしている。消毒液は点滴の袋や管に入れるなど、投与法を使い分けて、自分の勤務以外の時間に死亡するよう図っていた疑いも。県警は12日午前から、久保木容疑者の自宅を4時間にわたって捜索。パソコンなど十数点を押収した。

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個人では国内犯罪史上最悪の犯罪となる可能性も