歌舞伎には、無数の“型”が存在するが、その型を忠実になぞりながら彼は、こっそり自分の内面をぶつける。表現という文字は、“あらわれる”という文字が二つ重なるが、「なにを表し現すかといえば、内面だと思うんです。その人の内面が薫るから、同じ型でも違って見える」。

 そんな彼が、現代劇、しかも翻訳劇に初挑戦する。舞台「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」は、2008年にトニー賞作品賞を受賞した「イン・ザ・ハイツ」の脚本を担当したキアラ・アレグリア・ヒュディスによる12年ピュリツァー賞戯曲部門受賞作。右近さんは、イラク戦争に参加後、薬物依存になった過去を持つ青年エリオットを演じる。

「まさに今の、僕らの世代を描いた翻訳劇なので、今まで携わってきた歌舞伎とは対極の内容です。僕にとっては挑戦であり冒険でもあって、どうやって役にアプローチすべきか、途方に暮れることも多いんですが、だからこそ本番でどうなるかわからない楽しみがあるんです」

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日 2018年7月20日号