認知症の発症リスクの35%は変更できる――。これは世界的に評価の高い医学雑誌「ランセット」で昨年発表されたデータだ。では、その35%とは何か。驚くべきことに、10~20代の若年期からそのリスクがあるという。

「認知症のリスクうち35%は変更が可能で、論理的には予防できるのです。若年期では教育不足が認知症の発症リスクとして指摘されています。世界では十分な教育を受けられていない人もいます。高等教育を整えることが、将来の認知症対策には必要でしょう」

 と、国立長寿医療研究センター老年学研究部部長の島田裕之医師は話す。中年期でリスクになるのが、高血圧や肥満などの生活習慣病だ。こうした生活習慣病の予防が、イコール認知症の予防にもなる。さらに中年期のリスクとして注目すべきことが、“難聴”が認知症リスクになると提言されたことだ。

 聴力の低下は30代からゆっくりと進む。聴覚からの情報は、思考や感情の反応に直結するため、脳の働きや認知機能に影響する。また聴力の衰えによって、コニュニケーションや社会的な活動が減ってしまう。加齢による難聴は治療法がないが、補聴器で聴力を補うことが対策になる。

 高齢期に入ると、喫煙やうつ病、運動不足、糖尿病が発症のリスクになる。若年期から高齢期までにこれらの危険因子を一つでもなくすことが、発症の予防になるのだ。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学教授の阿部康二医師はこう話す。

「アルツハイマー病の患者は50歳くらいから脳に変化が起こり、徐々に進行していきます。しかし、病気が確定するのは73~75歳くらい。つまり50歳から25年間も、生活習慣の改善で進行を予防するチャンスがあるのです」

 阿部医師は予防法の科学的根拠を実証するエビデンス創出委員会の委員長を務めている。同学会にエビデンスの申請をすると、論文などの書面審査のみのものと、臨床試験をおこなう必要があるものとに分けられ、予防効果の検証がされる。最終的に特A、A~Eの6段階のグレードで評価される。

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