選挙演説をする五つ星運動の創設者、グリッロ氏(左)とディマイオ氏(c)朝日新聞社
選挙演説をする五つ星運動の創設者、グリッロ氏(左)とディマイオ氏(c)朝日新聞社
五つ星運動の選挙集会で、候補者の演説を聞く人たち(c)朝日新聞社
五つ星運動の選挙集会で、候補者の演説を聞く人たち(c)朝日新聞社

「政治を市民の手に」。3月のイタリアの総選挙で、新風の五つ星運動が、ネットを駆使して第1党に躍り出た。現地で取材すると、単なる大衆迎合ではなく、市民と政治をつなぐ新たな政治運動の息吹を感じた。ジャーナリスト・山田厚史氏がレポートする。

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 総選挙の大勢が判明した3月5日未明、ローマ市内のホテルに五つ星運動のディマイオ代表(31)が現れた。「歴史的選挙となった。第三共和制がこれから始まる」。高ぶりを抑える淡々とした勝利宣言だった。

 総選挙は三つ巴の戦い。与党民主党を核とする中道左派連合、政界に復帰したベルルスコーニ元首相(81)が率いる中道右派連合、右でも左でもない五つ星がしのぎを削った。下院の議席は中道右派265、五つ星227、中道左派122。いずれも過半数に達しなかった。

 日本では「ベルルスコーニの勝利」のように報じられるが現地では全く違う。五つ星のぶっちぎり勝利が話題だ。「ポピュリズム政党の躍進」との受け止め方もあるが、市民と政治をつなぐ役割を現地で実感した。

 右派も左派も複数政党の連合。政党別に見ると単独で選挙に臨んだ五つ星は227。2位は民主党86、3位は同盟(旧北部同盟)73、ベルルスコーニのフォルツァ・イタリア(イタリア頑張れ)は59にとどまった。

 ベルルスコーニは脱税の有罪判決で、公職に就けない。右派連合を操って連立政権のキングメーカーをねらうが、醜聞まみれの元首相にウンザリする有権者は少なくない。

 象徴的な出来事がミラノで起きた。投票所を訪れた同氏の前で、女性がいきなり上半身裸になって、「お前は期限切れだ」と胸に書いたメッセージを示した。

 右派で主導権を握ったのはサルビーニ書記長(44)率いる同盟だ。不法移民の即時送還を主張し、EU離脱を匂わす。「ファシストと呼ばれても結構」と公言する右翼だ。EU残留を主張するベルルスコーニとは隔たりがある。右派は排外主義が力を増し、左派は民主党が惨敗し、レンツィ党首が辞任を表明した。

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