早明浦ダムのほとりにある大川村
早明浦ダムのほとりにある大川村
早明浦ダムに水没している旧大川村役場。雨不足で水位が下がり一部が現れた
早明浦ダムに水没している旧大川村役場。雨不足で水位が下がり一部が現れた

 地方議会が存続の危機にひんしている自治体がある。人口約400人。離島を除けば全国で最少の高知県大川村では、今夏、議会に代わり全有権者が参加する「村民総会」の設置が取り沙汰され、物議を醸した。少子高齢化が進むなか、地方自治のあり方が変わろうとしている。

【写真】ダムに水没している旧大川村役場の様子

「異議なし!」

 9月15日、大川村役場の2階にある村議会の議場では、9月の補正予算案が可決されようとしていた。

 議長を除く5人の村議が横一列に座り、橋の補修工事の詳細などを村長に問いただす。やり取りの音声は、村の全戸に設置された「ふるさと放送」で生中継されている。壁には歴代村長と議長の肖像写真。国会のように居眠りをしたり、スマホをいじったりする人は一人もいない。とても、存続が危ぶまれている議会とは思えない雰囲気だった。

 高知市から車で約1時間20分。大川村は周囲を四国山地の1千メートル級の山々に囲まれ、“四国の水がめ”早明浦ダムのほとりに位置する。

 1972年には、多数の雇用者を抱え主要産業だった銅鉱山が閉鎖された。75年には完成したダムの湖底に村の主要部分が沈み、60年代に4千人を超えていた人口は急減。今では約43%が65歳以上の高齢者で、過疎に苦しんでいる。

 コンビニも居酒屋もなく、村の中心部には小さな商店が数軒と、食堂兼民宿が1軒あるのみ。民宿を営む80代の女性は「ダムの上流、栄えた例なしよ。ほんとに、つまらんなりました」と、ため息をつく。

 この小さな村が突然、全国的な注目を集めることになったのは今年5月。議長の朝倉慧氏(78)が村議会に提出した諮問書の中に、「村民総会の設置の是非の検討」という、聞きなれないキーワードが含まれていたためだ。

 村民総会(町の場合は町民総会)とは、従来の町村議会に代わって、有権者が直接参加して条例や予算などを決める制度。古代ギリシャの直接民主制のようなイメージが思い浮かぶが、地方自治法94条で町村が条例を定めれば、「議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができる」と、定められているのだ。

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