北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
北原氏は震災時の民主党批判をし続ける安倍首相に疑問を呈する(※写真はイメージ)北原氏は震災時の民主党批判をし続ける安倍首相に疑問を呈する(※写真はイメージ)
 作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は東京電力福島第一原発事故が起きたときの民主党政権を批判する、安倍晋三首相に疑問を呈する。

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 安倍さんは選挙戦の第一声を福島市であげた。

「なぜ私がこの福島の地から選挙戦をスタートするのか。それはあの東日本大震災。当時の民主党政権の下、なかなか復興が進まない。一日でも早く政権を奪還すべき、これが私たちの原点だ」

 演説しているのは田んぼの中。最近の安倍さんの演説につきものの「安倍ヤメロ」の抗議はなく、映像をみるかぎり、集まっているのはおじいさんばかり。“僕の大切な第一声”が邪魔されないための、選び抜かれた田んぼだね。色々と弱い……。

 それにしても、未だに「原発事故当時の民主党」批判を言い続ける安倍さんがこの5年間、何をしてくれたというんだろう。原発の汚染水はコントロールされていると国際舞台で嘘をつき、復興は進んでいると断言はするが、やっていることはオリンピックで盛り上げて福島を忘れようとする表面的なお祭り騒ぎで、あれほどの事故を起こしたにもかかわらず原発再稼働をどんどん進めた上に、海外にも売りつけ、しまいには民主党批判を福島の田んぼで行う。

 
 2011年の原発事故直後。とにかく原子炉を冷やさねばならぬと緊迫した日々のなか、当時の官房長官だった枝野さんが血の気を失った顔でテレビカメラの前に立ち続けた。あの時、私が心から感謝していたことの一つは「麻生政権でなくて本当によかった」「自民党政権でなくて本当によかった」ということだった。もし麻生さんや安倍さんだったら、どうなったことか。少なくとも全ての原発を止める、という選択を、自民党政権がしたかどうか心から疑問だ。むしろ原発推進政策をずっと行ってきた自民党の責任を取らされまいと画策することに力を費やすようなことをしたのではないか。これまでの安倍政権の振る舞いをみていると、勇ましい音頭を取って、命に関わる情報を隠すような、そんなことがまかり通っていたのではないかと簡単に想像がつく。

 あの時、政権に辻元清美さんをはじめ、弱者の側に立ち続けてきた政治家がいてくれたことが、命綱を探るような思いでテレビを見続けた者にとって、救いだった。たくさんの命が一瞬にして消え、そして、これからも放射能によって多くの命が危険にさらされる国になる。そのような時に、麻生さんや安倍さんがリーダーじゃなくて、本当に本当に、よかった。

 あれほどの規模の震災、そして人類史上最悪の原発事故を起こした国。どの政権だったとしても復興など簡単にいくはずがない。そんな簡単に復興できるような規模の被害じゃないはずだ。鬼の首を取ったかのように、震災時の民主党批判をし続ける資格は安倍さんにはない。

 安倍さんは田んぼで仲間を集めた演説ではなく、今も苦しみの中にある人たちの前で同じような演説をやってみればいい。あなたが優遇してきた人たちの背後の、あなたが切り捨ててきた無数の人生の前で、無意味な拳を上げてみればいい。怖くて、できないでしょうね。

週刊朝日 2017年10月27日号

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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