来年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を前に、西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏が、侍ジャパンへの期待と不安を指摘する。

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 侍ジャパンが11月にオランダと強化試合をするという。来年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)へ向け、ただでさえ対戦機会の少ないヨーロッパのチームと試合をできるのは、本当に貴重だ。

 私が投手総合コーチを務めた前回大会(2013年)では、2次ラウンドでオランダと2試合戦って連勝したが、打者は強いスイングをしていた。世界一奪回を目指す日本の強力なライバルになるよ。ベストメンバーが来るかどうかは別として、肌で感じてもらいたい。

 国際大会では、国内で経験したことのない事象が起きる。前回大会では、準決勝のプエルトリコ戦で相手投手に苦しめられた。何しろ、まともな直球はない。投球間隔を空けずに、どんどん投げ込んでくる。打者の準備が整わないうちに投球動作に入るほどで、なかなか対応できずに敗れた。

 11月のオランダ戦で、小久保裕紀監督がどんな選手を選ぶかに注目したい。

 投手に関して言えば、すでに力量のわかっている投手を呼ぶ可能性は低いのではないか。

巨人・菅野、日本ハム・大谷は休養に専念させてもいいだろう。シーズン中の疲労からしっかり回復し、早くWBC本大会に向けた準備をしてもらったほうがいいと思う。

 野手は違う。昨季来日し、今季は初登板から14連勝の日本新記録を樹立したバンデンハーク(ソフトバンク)がいるように、オランダ投手陣の潜在能力は高い。いろんな投手を見ておくべきだ。

 日本は本当に若き才能が揃っている。世界一連覇を果たした09年の第2回大会もイチロー(現・米マーリンズ)、松坂大輔(現ソフトバンク)の投打の軸を中心に、脂の乗り切った選手が多かったが、今回は若くて可能性を秘めた選手ばかりだ。世界一へ向けての戦力としては申し分ない。

 
 ヤクルトの山田哲人がいることで、いろんな打順を組める。西武・秋山、ソフトバンク・柳田、DeNA・筒香と左の好打者が揃っている。ジグザグ打線を基本線とするなら、山田を4番に据え、柳田、筒香を前後に置くこともできる。国際大会では大量点を望めないと考えるなら、足を絡めるために、山田を1番や3番に入れてもいい。相手投手の特徴によって山田の打順を調整しながら、点を取る打線を形成できる。

 さて、ここでも気になるのが「コリジョン(衝突)ルール」だ。

 来年3月のWBCを見据えると、運用基準は早く変更したほうがいい。国内のことだけを考えれば、変更はさらなる混乱を招く可能性があるから、来年以降に変更したほうがスムーズにいくと思う。しかし、国際基準という観点を考えたら、日本だけ違った基準だと具合がよくない。12球団がシーズン中の運用基準変更を検討しているのなら、私も賛成だ。

 メジャーリーグでは14年の試験導入から3年を経て、弾力的な判定基準に変わったと聞く。日本のプロ野球が現行基準のままでWBCを迎えたら、代表選手は戸惑うだろう。

 1点を争う場面で、捕手が走路をキッチリ空けてタッチにいって、まんまと決勝点を奪われるなんてことになりかねない。現場もファンも現行でいいとは思っていないはず。早急に検討してほしい。

週刊朝日  2016年7月22日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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