事件の傷あとは深い…(※イメージ)
事件の傷あとは深い…(※イメージ)

 フリージャーナリストの後藤健二さん(当時47)が、過激派組織「イスラム国」(IS)に殺害されて、1月末ではや1年。

 後藤さんの実母、石堂順子さんは「あれから日本政府から何も連絡がありません。お骨はまだ返ってきていないんです」と言葉少な。代わって、夫の行夫さんは「家内はまだ精神的ショックから立ち直れていないんです」と話し、事件後の傷あとの深さをうかがわせた。

「一周忌に向けて、都内に墓を建てる予定で進めていたんです。健二を殺害したとみられるISの英国人ジハーディ・ジョンが米軍の空爆で死亡。そのころテレビ局のインタビューを受けたんですが、テレビ局の記者さんから『たとえ被害者であっても、ハデに動くのは気をつけたほうがいい』とのアドバイスを受けて、ちょっと目立たないようにしたんです」(行夫さん)

 墓が建つ予定の寺には「迷惑かけるかもしれないからやめにします」と伝えた。後藤さんと妻の間には2人の娘がいるが、事件後、妻からは連絡がなく、会えていない。

「彼女はまだ若いし、いつ再婚するかもわからない。あえて様子を聞こうとも思いませんし、ただ静かに息子のことを思っています」(同)

 後藤さんの両親から依頼され、後藤さんの遺骨返還に尽力してきたアラブ情勢に詳しい一水会の木村三浩代表はこう怒る。

「私がヨルダンに行き、後藤さんの遺骨返還交渉を託したムーサ弁護士は、半年以上前、両親と話をするために来日しようとしたら、外務省がビザを発給せず、来日が実現しませんでした。日本政府は結局、遺骨が返ってくるのを妨害しただけなんです」

 途方に暮れる遺族の姿が痛々しい。

(本誌取材班=上田耕司、亀井洋志、小泉耕平、永井貴子、長倉克枝、永野原梨香、鳴澤大、西岡千史、秦正理、林壮一、牧野めぐみ、松岡かすみ、山内リカ/今西憲之、菅野朋子、岸本貞司、桐島瞬、柳川悠二)

週刊朝日  2016年1月1-8日号