俳優 岡田茉莉子さん (c)朝日新聞社
俳優 岡田茉莉子さん (c)朝日新聞社

 肺炎のため、9月5日に95歳で亡くなった原節子さん。共演した経験がある俳優の岡田茉莉子さんは、原さんについて気取りのなかった人と評する。

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 原さんと一番最初に共演したのは「白魚」(1953年)という映画を撮ったときです。監督は、谷久虎さんといって原さんの義理のお兄さま。そして実のお兄さんがカメラマンだったのですが、その撮影中に事故でお亡くなりになったんです。そんな大変な映画でご一緒させていただきました。

 お兄さんには何でも相談なさっていたようで、亡くなってすごく悲しかったと思うんです。けれど、撮影所のみんなには、弱みや涙は絶対見せませんでした。あの方は、実はサバサバしていてとても男っぽい方。気丈に振る舞っていらっしゃいました。

 事故以降はあんまりお話しされなくなったんですけれど、それまでは控室でいろんなことをお話ししてくださいました。例えば、彼女はビールが好きで、たばこも嗜まれる。でも当時の私はまだ若かったので、「茉莉ちゃん、ビールを飲みすぎると太るわよ」「たばこを吸うと肌が汚れるから、あまり吸わないほうがいいわよ」って。非常にざっくばらんに接してくださり、妹のように可愛がっていただきました。原さんは、スクリーンでの近寄りがたい感じとは違い、気取りのない方なんです。

 女優をやめると知り、なぜ引退するのか尋ねました。すると「畳の上での芝居がしづらくなったから」と。原さんは、きれいな立ち居振る舞いをなくしたくなかったのでしょう。

 その後は交流はありません。鎌倉にいらっしゃることは知っていましたが、そっと静かにしておいてさしあげたほうがいいと思っていましたので、お伺いすることは控えました。

 訃報をニュースで見て驚きましたが、でも、原さんらしいと思いました。誰にも知られずひっそりと旅立たれた、というところが。

週刊朝日 2015年12月11日号