ピロリ菌の感染は6歳ごろまでに成立し、以後、その状態が続く。大人になってからは、下水道が完備していない国に行ったなどの場合を除き、感染することはほとんどないと考えてよい。

 ピロリ菌に感染してから胃がんの発症までには数十年かかる。その間に胃は次のように変化していく。

 ピロリ菌に感染すると、程度はさまざまだが「慢性胃炎」になる。すると、胃粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」に進む。さらには、胃の細胞が腸の形に似た細胞に置き換わる「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」を起こすことが多く、こういった変化が胃がんを発症させると考えられている。ピロリ菌感染がずっと続いた場合、生涯のうち10~15%の人が胃がんと診断されるという推定もある。

 日本のピロリ菌感染者は、推定3千万人以上。年齢が高いほど感染率が高い。

「15年に日本で新たに胃がんと診断される患者は約13万人で、約5万人が胃がんで死亡すると推定されています。胃がんを減らす確実な方法は、ピロリ菌感染者を減らすことです。ぜひ一度、ピロリ菌がいるかどうか調べてください。もしいるなら内視鏡などで胃をよく調べ、除菌することをお勧めします」

 と伊藤医師は話す。

 日本では13年に、ピロリ菌に感染した慢性胃炎を「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」とし、除菌療法に健康保険が使えるようになった。除菌療法は、酸の分泌を抑える薬と、2種類の抗菌薬(アモキシシリンとクラリスロマイシン)の合計3剤を、1日2回、7日間飲む(一次除菌)というものだ。おもな副作用には軟便や下痢がある。薬を飲み終えて4週間以上経ったら、「尿素呼気試験」や「便中抗原測定」を実施して効果を判定する。このとき菌が退治されていなかったら、クラリスロマイシンをメトロニダゾールという抗菌薬に変えて二次除菌をおこなう。ここまでは健康保険が利く。

週刊朝日 2015年11月27日号より抜粋