西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、今年の日本シリーズを振り返り、また「世界野球WBSCプレミア12」の戦い方についても持論を展開した。

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 ソフトバンクが圧倒的な力で2年連続日本一となった。投手の質の高さが目立った。救援陣は、後ろにいけばいくほど球の速い投手が出てくる。ヤクルト先発陣が先に点をとられると、一方的な展開になってしまった。

 ヤクルト先発陣は、第1、2戦では相手の弱点を探ろうとオーソドックスな攻め方が目立ったが、全般的には内角をうまく攻めていたと思う。ただ、同じ内角でも、高めを攻めているのか、低めを攻めているのかは見えなかった。

 内角高めに1球投げても、次に外角低めに投じたら打ち返される。配球が難しくなり、捕手の中村悠平は配球に腐心したことだろう。個の力の差を感じたのではないかな。

 セ・リーグの打点王となったヤクルトの4番、畠山和洋が「こんな強いチームが日本にあったのか」と語ったのを報道で知ったが、すべての部分でソフトバンクが上だった。近年の交流戦を見ても、パが優勢だ。打者は強く振る、投手は速い球を投げる。そうした点でセを上回っている。

 トリプルスリーを達成したヤクルトの山田哲人が3戦目に3本塁打を放ったのも、鋭いスイングを繰り出した結果だ。「強く振ったうえでの技術力」。これが一番大事だと再確認できたのではないかな。

 ドラフトを視野に入れたスカウトたちの目も変わってくるだろう。まず、強くバットを振れる、強く腕を振れる体を持った選手が求められるようになる。

 
 2軍での指導にも変革が起きるはずだ。近年、多彩な変化球を持つ投手がクローズアップされてきた。打者も、巧みなバットコントロールをする技術力が称賛されるようになった。イチロー(マーリンズ)や青木(ジャイアンツ)らの影響かな。ただ、はき違えてはいけない。この2人だって、強く振ったうえでの技術を身につけている。そうでなければ、メジャーの150キロを超す速球を打ち返すことなんてできない。

 先日のドラフトでは、私が設立にかかわった「世田谷西シニア」出身の選手が初めてプロ入りすることになった。巨人に5位指名された慶大の山本泰寛だ。今も世田谷西シニアの名誉会長をしているから感慨深いのだが、彼にも「強く振る」ことを絶対に忘れないでほしい。

 巨人は高橋由伸監督の新体制になり、選手の世代交代も進むはずだ。巨人だから結果を強く求められるだろうが、山本にはぜひともずぶとい選手になってもらいたい。来年1年は足りないところを鍛え、長所をとことん伸ばすことに腐心してほしい。結果を意識しすぎて、こぢんまりとなってはいけない。

 開幕した「世界野球WBSCプレミア12」についても触れておこう。日本は優勝候補。相手はいろんな策で攻めてくるだろう。

 2013年のWBCでも、プエルトリコは日本に対し、先発投手が投球間隔を極端に狭め、打者の間合いで打席に入らせなかった。

 がっぷり四つに組んでくれない相手にどう対応するか。私が見たいのは、自分のスタイルを貫き通すところと、変わり身に対応するバランスをどう保つかだ。負けられない戦いの中で、代表選手たちの心身の強さを見たい。

週刊朝日 2015年11月20日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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