羽生:予想はできないですけど、いろんなことを推測し続けています。同じ一手を指すのでも、10秒で指したのと、10分考えて指したのとでは意味が違うんです。10分考えたということは、ほかの手も考えたんだろう。しかしこの手を選んだということは、形勢に自信を持ってるんだな、とか。対局中はそういうことをいっぱい考えています。

林:なるほど。

羽生:「棋は対話なり」という言葉があるんですけど、相手の人の性格や考え方が、たくさん対局していくとわかってきますね。こういうことはしないとか、こういうやり方が好きなんだ、とか。

林:お互いの性格なんかも、だいたいわかっています?

羽生:棋士は160人しかいない上に、よく対戦する人は20人ぐらい、同年代だと子どものころから大会で顔を合わせたりしてるので。棋士だけじゃなくて、事務の方や記事を書く方、全員顔見知りですね。

林:棋士同士って仲良しなんですか? 家族ぐるみでどこかに行かれたりとか?

羽生:真剣勝負で対局しなければいけないので、ふつうの人間関係とはちょっと違いますね。ただ、わかり合えてる部分もあって、たとえば、「最近調子悪いじゃない」みたいなことは、棋士同士では絶対に言わないです。言わなくてもお互いわかっていることなので。

週刊朝日 2015年9月25日号より抜粋