5月に全焼し、11人の死者を出した川崎市の簡易宿泊所 (c)朝日新聞社 @@写禁
5月に全焼し、11人の死者を出した川崎市の簡易宿泊所 (c)朝日新聞社 @@写禁

 行政による特別養護老人ホームや都市型軽費老人ホームの整備が進められているが、施設に入居できない高齢者は巷にあふれ返っている。

 厚生労働省などによると、一人暮らしの高齢者数は約600万人とされる。

 その多くは年金などで切り詰めた生活を続け、病気、ケガなどがきっかけで介護が必要になると、たちまち赤字となり、“老後破綻”の危機に直面する。

 貧困に苦しむ高齢者の実態を記した『下流老人』(朝日新書)の著者で、生活困窮支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんによると、それまで普通の暮らしをしていた高齢者が病気になっても介護サービスを受けられなかったり、介護施設に入居できなかったりすることで下流化するというのだ。

 下流老人とは、「生活保護基準相当(12万円前後)で暮らす高齢者」で、その数は600万~700万人と推定される。

 一方、生活保護を受けている世帯は今年6月に、162万世帯と過去最多を更新した。65歳以上の高齢者世帯で増加が続き、全体の5割を占める。

 こうした悪循環の中で増え続ける下流老人をターゲットにした「貧困ビジネス」がはびこっていると藤田さんは指摘する。

 その温床となっているのが、生活保護受給者向けの無料低額宿泊施設だ。家族の支援が得られず高齢者向けの施設にも入居できず、行き場のなくなった高齢者がたどりつく先だ。

 無料低額宿泊施設をめぐっては、利用者から生活保護費をだましとったとして08年ごろに事件化。厚労省が対策に乗り出していたが、生活保護受給者の増加にともない、再びそのあり方が問題となりつつある。

「無料低額宿泊所ビジネスの実態は、あまりにひどいです」

 日本社会事業大学4年生の吉田涼さん(23)はそう訴える。吉田さんは、都内にある無料低額宿泊施設で昨年12月まで1年半の間アルバイトの非常勤指導員として勤務していて、その実態を目の当たりにした。

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