昨年5月、迷走するザハ案を見かねた伊東氏は、旧国立競技場を改修するデザイン案を公表した。多目的利用をやめ、開閉式の屋根もつけないことで総工費を約700億円に抑えた。

 だが、旧国立競技場は解体され、この案も不可能になった。それでも伊東氏には、次の希望がある。

「やり直しのコンペでは、競技専用スタジアムを条件にすべき。そうすればコストが下がり、建築家のデザインの幅も広がります」

 17日に計画見直しを発表した安倍首相は、総工費を2千億円未満に下げることを目標にしている。前出の森山氏は、その実現のためには新国立競技場の規模も縮小すべきだと指摘する。

「ロンドン五輪のメインスタジアムは延べ床面積が約11万平方メートルで、改修費なども含めて総工費が約1千億円。それが当初のザハ案は約29万平方メートルで、ロンドンの2.6倍あった。競技場が大きければ費用がかさむのは当然で、規模を縮小しないと、2千億円超えは確実です」

 前提条件の変更が決まっていない現段階では、文科省の幹部も不安顔だ。

「予算の狙いは1900億円を切ること。いまや中身より数字ありきですよ……」

 新国立競技場をめぐる迷走は、まだまだ続きそうだ。

(本誌・一原知之、西岡千史、小泉耕平、古田真梨子、森下香枝)

週刊朝日 2015年8月7日号