いつしか王様を演じるのに相応しい年齢になった。でも、役への取り組み方は、若い頃と変わっていない。

「王様がすべて威厳や風格があるかといえば、そうじゃなかったりするからね(笑)。毎回、“役を深く理解できたら”と思う気持ちに変わりはない。肉体に、役の感情を染み込ませたい。そのためには、稽古に全身全霊で取り組むしかないんです。ただ、自分がその役をできるかという不安を覚えたことはあまりないかな。何でも数字に表れるスポーツと違って、何をいいと感じるか、悪いと感じるかは人によって違う。正解はわからない。それが不安と言えば不安だけれど、芸術的なことはみんなそうだから。ただ、台詞が下手な役者にはなりたくなかった。何を上手いと感じるかは好みによるけど、下手はね。それを個性の一言で片付けるわけにはいかないから(苦笑)」

 出てくる言葉はすべて本音であり、かつ人間や芝居、人生に対する“決めつけ”がまったくない。先入観、偏見、レッテル、固定概念。そういったものとは無縁の生き方が、江守さんの精神の自由を感じさせる。

「若い頃は野心があって、それがどうにも切実だった。有名になりたいとか、金を儲けたいとかさ。でも、今でも野心はちゃんと持ってるの。だって、枯れたくないもんね。あと、今もお金は欲しいねぇ(笑)」

週刊朝日 2015年6月26日号