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「お互い特に必要を感じていなかった」という結婚をして、早34年。富士山と芦ノ湖を見晴らす箱根の地でスローライフを実践しながら、俳優業と作陶生活を両立する妻・丘みつ子さんと、元パイロットで保育園も営んだ夫・森田演(もりた・ひろし)さん。背景もキャリアもまったく違うふたりは、個性的な夫婦の形を作っていた。

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夫「当時はまだ芸能ゴシップが重大ニュースみたいに扱われてたころ。なかにはメディアゴロみたいな人間もいて、『丘みつ子のゴシップを1週間のシリーズで載せる。250万円出すなら数日猶予してもいいが、どうだ』と言ってきた」

妻「こっちは別に悪いことしてるわけじゃなし、書かれて困ることなんてありゃしないのにね」

夫「ほっといたら、記事にはなったんだけど、“シリーズ”は3日間で打ち切りに。お金にならないから、諦めたんだろうね(笑)」

妻「私も仕事柄、いつかはこういう日が来るだろうと思ってました。ゴシップネタになって仕事が来ないなら、もうそれでいいと。結婚なんてする気もなかったし、急(せ)かされてするものでもない。だけど、家の前の電信柱にカメラマンがよじ登って盗撮しようとしてるのを見て、さすがにね。『いいわよ、結婚すりゃいいんでしょ』って。それが一番手っ取り早い解決方法でしたね」

――結婚はしたものの、バラバラの生活を続けることになる。

妻「あのころは本当にいろいろあった」

夫「留学から帰ってみたら、実家の保育園で労働争議が持ち上がってたんですよ。成田空港闘争の実行部隊だったような人が園内にいてね。その収拾に奔走して、4、5年もかかったかなあ」

妻「結婚後もまだ、もめてたもんね」

夫「ようやく収まったころ、昔の飛行機仲間から、アメリカでチャーター会社をやらないかって誘いが来た」

妻「私もさすがに驚きましたけど、女優業が忙しかったし、じゃあ、いってらっしゃいと。それでも最初の半年ぐらいは、仕事の合間に何度もアメリカへ行って、彼らのお世話をしましたよ」

夫「アメリカではチャーター機のニーズって結構あるんですよ。ABCのニュースキャスターが『取材のために今から飛ばしてくれ』とかね。大手石油会社の役員クラスのお客さんも多かった。以前に社長以下、重役全員が乗った飛行機の墜落事故があってから、1人1機、分散して乗るようになって、チャーター機の需要もぐっと増えた」

妻「いつ、どこへ飛ぶことになるかわからないから、常に夏物と冬物と、スーツケースを2セット用意する。この人はそんな生活」

夫「タヒチで豪華客船のエアコンが壊れて、『乗客が蒸しあがってるから、至急修理人を送り届けてくれ』なんて依頼もあった」

妻「私は日本でひたすら女優業とマラソンやトライアスロンに打ち込んでました。周りからは『日焼けすると仕事なくなるよ』なんて言われたけど、やりだしたら極めたくなるタイプで。撮影が終わるとプールで1時間泳いだり、現場までランニングや自転車で出かけたり。仕事の往復がトレーニングでしたね」

(聞き手・浅野裕見子)

週刊朝日 2015年5月1日号より抜粋