役者と学者、1字違いだけれど、住む世界はまったく違う俳優の原田大二郎と東洋学園大学学長の規梭子夫妻。出会いは、明治大学の英語サークルだった。そこでの英語劇コンテストの練習時に大二郎さんは惚れたという。

夫「先輩が、キサ(規梭子さん)の背を直すと言ってTシャツの背にモップの柄を挿して稽古させたことがあったじゃないか。あのとき、いつもと何かが違うなと思って、ふとキサを見たら、涙を流しながら、それでもちゃんと芝居をしていたよね」

妻「だって、悔しかったのよ。あまりにも理不尽だと思うし」

夫「その瞬間だね、この人を俺のヨメさんにするぞ、この意地っ張りの血を、将来の俺の子どもに取り込もう、と決心したもんね」

 熱意と猛稽古の甲斐あって、コンテストでは明治大学が優勝。規梭子さんは最優秀俳優賞に輝いた。

夫「それを機に、『つきあってくれないか』と申し込んだんです。ところが、『ごめんなさい。原田くんは好きなタイプじゃないの』」

妻「だって、夫役をやったのはいいけど、その夫って私を裏切って、そのために私はわが子を殺す、という物語でしょう。当時19歳ですからね、この悲劇の意味はほとんど理解していなかったけど、設定が悪すぎましたよ(笑)」

夫「でも、僕はあきらめない。毎日手紙を書き、彼女の時間割を調べて、文学部で同じ授業を受けて(笑)」

妻「ストーカーですね」

夫「下心を持って、抱きしめようとしても、さっと逃げて帰るんですよ。それでもあるとき、家まで送っていったんです。で、家に入るのを見届けて、帰ろうとしたら、腸がばらばらに切れるような思いがして、立っていられなくなった。バス停にすがりついて、ああ、これが本当に断腸の思いだ(笑)。で、彼女の家のほうを見ると、治まる」

妻「うそばっかり(笑)」

夫「でもまた、帰りかけると腸がちぎれる。これではいけない、とにかく今日のところは、下心をいだいたりしたことを謝って帰ろう、と家を訪ねたんです。ホントだよ、これ。そしたら、お母さんが出てきて、『よくいらっしゃったわね。おなかすいているでしょう』って栗まんじゅうとメロンを出してくれた。以来、僕は栗まんじゅうが大好きです」

妻「私はくやしくて、2階の自分の部屋にこもっていたんです。そしたら上の姉まで加わって、母と一緒に『原田くん、かっわいい』とかはしゃいでいる(笑)」

(聞き手・由井りょう子)

※週刊朝日 2014年12月26日号より抜粋