命を落とすことも 本当は怖い高山病 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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命を落とすことも 本当は怖い高山病

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 近年の登山ブームで山歩きを楽しむ人が増えている。その一方で、気軽に高い山に登り、高山病を発症する人も少なくない。重症化すると命を落とすこともある。今年7月に社員旅行の富士登山に参加した浅井政樹さん(仮名・23歳)も発症したひとり。救急車も来ない山の中だけに、注意が必要だ。

 高い場所ほど気圧は下がり、呼吸で得られる酸素量は標高3千メートルで平地の約3分の2に、5千メートルでは約半分に減少する。急激に高度を上げてこうした過酷な環境に突入すると、体は順応できず、酸素不足によるさまざまな不具合を起こす。これが急性高山病で、頭痛や吐き気、倦怠感などが特徴的な症状だ。齋藤繁医師(群馬大学麻酔神経科学教授)はこう説明する。

「多くの人に共通する症状は、頭痛です。酸素不足になった脳は、流れ込む血液を増やして酸素を取り込もうとしてむくんでくる。その結果、頭蓋骨の内側の圧力が高くなって、脳の表面を走る痛みの神経や吐き気の中枢が刺激され、頭痛などの症状が出ると考えられています。同じように脳がむくんだ状態になる、脳腫瘍の初期症状や、二日酔いの症状と似ています」

 睡眠中は起きているときに比べて酸素を取り込む能力が低下するため、翌朝になって突然症状が出てきたり、浅井さんのように悪化したりする場合も多い。

 平地で97%程度ある動脈血酸素飽和度は、富士山山頂の標高では75~80%まで低下するのが普通だが、浅井さんは70%まで落ち込んでいた。

 齋藤医師は浅井さんに「口すぼめ呼吸」をするように指示。息を大きく吸い、口笛を吹くように口をすぼめてしっかり吐き出すと、肺がすみずみまで広がり、効率的に酸素を取り込むことができる。浅井さんはやや速めの口すぼめ呼吸を5分ほど繰り返しただけで、動脈血酸素飽和度が90%まで上昇した。

 さらに内服した鎮痛薬と吐き気止めも功を奏し、歩けるようになったため、「日の出を見終えたら速やかに下山するように」という齋藤医師の指示に従った。下るにつれて症状は消え、5合目の登山口に到着するころにはすっかり元気を取り戻していたという。

「鎮痛薬や吐き気止めは一時的に症状を抑えるだけなので、下山してより気圧の高い環境に移動することが最も効果が高い治療法です。急ぎすぎると、酸素消費量が増加して症状が悪化するので、ゆっくり下るようにしてください」(齋藤医師)

 急性高山病を発症するのは標高2500メートルを超えるあたりから。標高が上がるにつれ、発症者数は増えていく。

「標高第2位の北岳(3193メートル)での発症は多くありませんが、さらに600メートル高い富士山では登山者の半数以上が何らかの急性高山病の症状を感じると言われています。体力の有無に関係なく発症します」(同)

 体には高度に順応しようとする機能が備わっているが、個人差が非常に大きい。高度順応力が高い人でも、一気に高度を上げたり、寝不足や疲れた状態で登るなど、体調や行程に無理があれば発症しやすくなる。

 発症を防ぐには、以下のような対策が有効だ。▽登山前は十分な休養を取る▽ゆっくり登る▽高所では必要以上に激しく体を動かさない▽やや速めの口すぼめ呼吸をする▽適量の水分補給をする(尿が透明なら大丈夫、濃い黄色なら脱水気味)▽慣れていない人は高所にとどまる時間をできるだけ短くする。

「また、登山は平地より厳しい環境で体を動かすため、心筋梗塞や脳卒中(脳血管障害)なども起こりやすい。富士山では毎年数人死者が出ています。持病がある人はとくに注意して登るようにしてください」(同)

 急性高山病は多くの登山者が経験するが、重症化すると「高地肺水腫」を引き起こすことがある。肺に水がたまり、酸素が取り込めなくなるため、進行すると呼吸困難を起こして命にかかわることも少なくない。

週刊朝日  2014年12月12日号より抜粋


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