安藤:コーチとはケンカするぐらい意見交換をしましたね。甘えというより、前に進むために。

林:子どものときから、自分の意見をハッキリ言える子だったんですか。

安藤:いえ、ニコライ(モロゾフ)コーチに出会ってからです。それまでは日本人のコーチだったので、自分の意見を言うことはほとんどなかったんです。日本では、先生の言ったことをきちんと受け止めるとか、目上の人の指示に従うとか、団体行動を乱さないとか、そういうことが大事にされるので。

林:でも、トリノ五輪の後にニコライさんに出会ってからは……。

安藤:「なんで自分の意見を言わないんだ。感情がないのか。何がよくて、何が悪いのかまったくわからない」って言われて。私、日本の選手の中では感情があるほうだと思っていたので、びっくりしました。それはそのころホームステイしていたアメリカのお母さんにも言われました。「ミキは何を考えているのかわからなくて困る。イエスかノーかはっきり言ってほしい」って。それから自分の意見を言うようになりました。

林:そうなんですか。

安藤:私は「人と一緒にしないといけない」というのが苦しかったので、アメリカに行ってそこから解放されたことはすごくよかったです。

林:安藤さんは、記者会見でもすごくきちんとお話しされますし、外国の記者の方に対しても通訳を通さないんですよね。

安藤:日本人の選手は通訳をつけて記者会見をすることが多かったんですが、「トップになる選手がそれでは恥ずかしい」と言われて、それから自分で話すようにしたんです。文法もグチャグチャなんですけど、それよりも自分の口で伝えることが大事だと思って。

林:これだけのことを成し遂げてまだ20代って、すごいことですよね。

安藤:いえ、世界にはもっとすごい人がいますので。

林:こんなにしっかり自分を持ってる女性に太刀打ちできる日本の男の人、あんまりいないかもしれない。いま「あんた、なんで生きてるの?」みたいな男の子ばっかりじゃないですか。

安藤:わからないですけど(笑)。皆さんたぶん必死で生きてると思います。でも私、とっつきにくいと思います。けっこうはっきり言っちゃうので。

週刊朝日  2014年8月15日号より抜粋