一人目は自然妊娠で授かったのに、二人目がなかなか妊娠できない「二人目不妊」が増えてきているという。

 不妊治療専門施設の英(はなぶさ)ウィメンズクリニックの調査では二人目不妊の原因として卵管因子の次に多かったのが男性因子だ。

 石井洋介さん(仮名・39歳)、智美さん(仮名・33歳)夫妻は、智美さんに不妊原因はなかったが、洋介さんの精子の動きが悪かった。そのため一人目の子どもを体外受精で授かり、出産した。二人目も欲しかったが、再び体外受精をすることに抵抗があった。洋介さんはインターネットで精索静脈瘤という病気を知り、自分もこの病気ではないかと疑って東邦大学医療センター大森病院のリプロダクションセンター(泌尿器科)を受診。センター長の永尾光一医師は、すぐに精索静脈瘤と診断した。

 精索静脈瘤とは、精巣の静脈に血液が逆流し、静脈が腫れてこぶのようになった状態を指す。血流が滞るため、精巣内の温度が上昇し、精子が形成されにくくなる。このため、精子の数が少ない乏精子症や精子運動率の低下を引き起こす。

 精索静脈瘤があっても必ずしも不妊になるわけではないが、男性不妊患者の約40%に精索静脈瘤が見つかる。永尾医師はこう話す。

「二人目不妊のうち、男性に原因がある場合の78%が精索静脈瘤です。精索静脈瘤は進行性の症状で、進行するほど精子をつくる機能は落ちていきます。一人目のときは軽度の精索静脈瘤で自然に妊娠できても、二人目を考えたときには進行していて不妊になることがあるのです」

 
 洋介さんは精液検査の結果、精子の運動率が悪く、手術をすすめられた。手術の方法はいくつかあるが、洋介さんが受けたのは「顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術」だ。陰嚢の付け根部分を2、3センチ切開して静脈をしばる方法で、手術時間は1時間程度。一般的には入院が必要だが、同院の場合、局所麻酔で日帰りが可能だ。デスクワーク程度なら翌日から仕事ができ、1週間後には運動や性交もできる。自費診療のため、費用は20万円程度だ。腹部を切開して高い位置にある静脈をしばる「高位結紮術」の場合は、保険が適用され10万円以下になるが、全身麻酔で入院が必要だ。

 同院では手術後、約80%の精子濃度や精子の運動率が改善している。術後の自然妊娠率は24~53%だ。洋介さんも精子の運動率が自然妊娠を望めるまでに改善し、現在経過観察中だ。

 手術の効果は精索静脈瘤が進行しているほど高い。軽症の場合は治療効果が得られないこともあるので、手術は推奨されていない。

 不妊症だと、まず女性が婦人科を受診する場合が多いが、婦人科で精索静脈瘤の診断はできない。精液検査で問題があっても原因を特定しないまま、体外受精をすすめられる場合もある。

「泌尿器科を一回でも受診していただければ、精索静脈瘤は診断できます。精子の老化も加速しやすいので、できるだけ早く受診してください。手術をすると人工授精や体外受精による妊娠率も上がることがわかっています」(永尾医師)

 泌尿器科でも精索静脈瘤の手術ができる施設は限られる。日本生殖医学会が認定する生殖医療専門医がいるかどうか、精索静脈瘤の手術を実施しているかどうかを確認して受診したい。

週刊朝日  2014年7月25日号より抜粋