『ロング・グッドバイ』は“生きる伝説”が作った作品? 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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『ロング・グッドバイ』は“生きる伝説”が作った作品?

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週刊朝日#ドラマ

ロング・グッドバイ

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳

978-4150704612

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 ドラマ評論家の成馬零一(なりまれいいち)氏は、放送が終了したNHK土曜ドラマ『ロング・グッドバイ』が良作だったわけをこういう。

*  *  *
 連続ドラマ初主演の浅野忠信によるNHK土曜ドラマ『ロング・グッドバイ』。もとは私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする米作家レイモンド・チャンドラーの探偵小説シリーズの一作で、現在は村上春樹によって翻訳されたものがハヤカワ文庫から出版されています。今回、敗戦直後の日本に舞台を移し、全5話のドラマとなりました。

 演出は、スパイ王国日本の内実に迫った『外事警察』の堀切園健太郎、音楽は『あまちゃん』の大友良英と、ドラマファンには座組だけでも話題が盛りだくさんですが、一番注目したいのはNHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の渡辺あやが脚本を担当したことです。

 渡辺は、独特のキャリアの持ち主。映画を中心に執筆してきた人で、犬童一心監督の『ジョゼと虎と魚たち』でデビューして以降、繊細な人間関係の描写が高く評価され、数々の映画賞を受けました。

 テレビドラマの執筆は、室生犀星の小説を翻案した『火の魚』(NHK広島)、阪神大震災で被災した子どもが15年後に偶然出会い、震災前日の夜から翌朝にかけて神戸を歩く姿をドキュメンタリータッチで描き、後に映画化された『その街のこども』(NHK大阪)の2本の単発ドラマと『カーネーション』の3作のみ。ですが、どの作品も圧倒的な完成度です。

 ふだんは島根県で2児の母として子育てを優先していることもあってか、作品の発表時期は不定期で、ほとんど“生きる伝説”のような存在。そんな彼女の2年ぶりの新作が『ロング・グッドバイ』だったため、多くのファンは驚きと戸惑いを持って迎えました。

 物語は、いわゆるミステリー仕立てで進んでいきます。私立探偵の増沢磐二(浅野忠信)は、飲み友達だった原田保(綾野剛)にかけられた妻殺害の疑惑を晴らすために調査を始めるのですが、やがて深い闇に巻き込まれていきます。

 本作で渡辺は二つのことに挑戦しています。一つは、男と女の物語を通して、お互いにひかれ合いながらも理解し合えない関係を描くこと。これは、渡辺が生涯取り組んでいるテーマといえます。磐二が保との友情を尊いものとしてとらえる一方、事件の鍵を握る美女、上井戸亜以子(小雪)を中心にうごめく男女の愛憎劇が、哀しくも、どこか美しく表現されます。

 もう一つは、敗戦直後の日本の描き方。日本テレビの創始者で「原子力の父」と言われた正力松太郎をモデルにしたと思われる大物実業家の原田平蔵(柄本明)が新しい時代の象徴として登場し、磐二は翻弄されます。押し寄せる時代の荒波に個人としてどう向き合うのか、私たちに問うているように思えます。

 当時の雰囲気を伝えるためなのか、全体的に暗闇の描写が多く、かすかに浮かび上がる光は実に美しい半面、テレビ画面では見づらいのが難点。ストーリーもあえて説明しない部分が多く、やや敷居の高い作品ではあります。しかし、すべての真相が明らかとなった後に磐二が直面する意外な真実は、オトナの視聴者たちに深い余韻を与えるはずです。

 全話完結した今こそ、夜中にギムレットでも飲みながら、録画していた作品をじっくりと観賞し、酩酊感に浸ってみてはいかがでしょうか。

週刊朝日  2014年6月6日号


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