作家の室井佑月氏が今、話したいのは年末に起きたこと。世間の休み気分を利用したようで「いやらしい」と感じてしまうという。

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 あけましておめでとうございます。あれ? それって先週の新年発売号でいったっけ? けれど、その号は去年の年末に書いたもの。

 今日は1月5日。あたしは仕事始めだし、もう一回いってもいっか。じつは、年が明けたからって、なにがおめでたいんだかよくわからないんだけど。

 みなさんはどんなお正月休みを過ごされました? あたしはボケッと口を開けて紅白を観た(美輪さんのとこだけ口閉じた)。

 でも、もう5日。そろそろ口をボケッと開けているのはやめようと思う。あたしがみなさんに聞いていただきたいのは、年末に起きたことの話。

 ネットニュースで観たのだが、東京電力は12月27日、福島第一原発のタービン建屋の観測井戸で、放射性ストロンチウムなどベータ線を出す放射性物質が1リットルあたり210万ベクレル検出されたと発表した。過去最高値だ。

 この観測井戸では値の上昇傾向がつづいているが、東電は「上昇の理由はよくわからない」といっている。

 素人でもわかる。ずっと漏れているんだろ、汚染水が。コントロールなんか出来てないんだろ、酷(ひど)くなってんじゃん。てか、水だけじゃないよね、漏れてるのはさ。そして、12月26日。安倍首相の靖国神社参拝。中国や韓国の非難だけじゃなく、アメリカからも失望されてしまったらしい。

 なんでも安倍さんはオバマ大統領の制止を振り切り、靖国へいったという。米国の意向を完全に無視した安倍さんは、米国の政府声明に「遺憾」などではなく、より強烈な批判を込めて「失望」と書かれた。

 日刊ゲンダイによると、

「アメリカが同盟国に対して『失望』という単語を使うことはほとんどない。ロシアのミサイル計画、中国の人権問題、ボスニアの改憲運動の失敗に対して使ったのが目立つくらいのものだ」

 米ワシントン・ポストには、

「和解ではなく、緊張を利用して憲法改正などの政策を正当化しようとする戦略をとった」

 そう批判された。

 そりゃ、ズバリだわ。特定秘密保護法をごり押しで通して支持率が下がってきたから、お仲間へのヨイショもしとかなきゃね、ってか。

 あたしは不思議よ。なぜ70年前にお国のために戦って死んでいった人々に手を合わせる気持ちがあって、今、苦しんでいるこの国の人々に思いを馳せる気持ちはないの? あなたは今なにしてる人? この人、正月はまた遊んでばかりいたんだって。ま、この方が動いても逆方向だから、期待しても無駄か。

 それにしても年末の揉め事は、わざわざ年末のドタバタにしておきたい卑怯な意図が汲み取れて厭らしい。そんな戦略に乗るかよ。テレビは正月番組で週刊誌は休刊になるけど、問題がなくなるわけじゃあるまいし。

 そうそう、正月から「東京新聞」のやる気は素晴らしい!

週刊朝日 2014年1月24日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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