12月11日、ロンドンで「主要8カ国(G8)」による「認知症サミット」が始まった。高齢化に伴う認知症患者の増加は、世界的な関心事になっているのだ。

 65歳以上の10人に1人が発症するといわれる認知症。予備群も含めると800万人を数える。認知症全体の約6割を占めるのがアルツハイマー病だ。「最近のできごとを忘れる」「時間や場所、人物の認識が不確かになる」「意欲がなくなる」などの症状から始まり、やがて、介助なしに日常生活を送るのがむずかしくなる。

 アルツハイマー病の原因物質は「β(ベータ)アミロイド」というタンパクだ。これが、脳神経細胞の周囲に溜(た)まることで神経細胞が傷つき、変性や細胞死が起こる。

 これまで、脳内に起きている変化は、亡くなった人を解剖する「剖検」でしか確認できなかった。しかし現在、最先端の「アミロイドPET(陽電子放射断層撮影)」という画像診断法により、一日でわかるようになった。

 アミロイドPETは、アメリカのベンチャー企業が開発。日本の厚生労働省にあたるFDA(米食品医薬品局)が条件付きで認可した。脳内のβアミロイドの様子が事前にわかれば、早期診断はもとより、治療薬や予防などの研究も進む。現在実施されている研究のほとんどは、このアミロイドPETを利用している。

「たとえば海外の研究ですが、アミロイドPETを実際に撮ってみると、60代の1割、70代の3割、80代の半数近くにβアミロイドが溜まっていることがわかりました。興味深いことに、このなかにはアルツハイマー病を発症した人と、記憶障害などがまったくない健康な方がいるのです。βアミロイドは徐々に蓄積し、ある時点まで進んだときに初めて症状を起こします。つまり、発症までのタイムラグがあることを示しているのです」(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻・神経病理学分野教授の岩坪威医師)

 アルツハイマー病は、βアミロイドが蓄積を始めて10~15年で発症すると考えられている。岩坪医師は期待を込めてこう続ける。

「新しい根本治療については、今までの『症状が出てから治療を始める』という治療戦略とは異なる考え方が必要になってきたということです。これまではβアミロイドの蓄積を確かめることができなかったため、症状が出てから治療を始めていましたが、画期的な診断法が登場したことで、発症前から治療を始める“先制医療”が可能になるかもしれません」

 アメリカでは、すでに先制医療の試みが始まっている。アルツハイマー病を発症していない人にアミロイドPETを実施し、βアミロイドが溜まっているか確かめた上で、該当者に臨床試験中の新薬を投与する。この方法で発症や進行が抑えられるかを調べるというものだ。国内でも早期のアルツハイマー病や発症にいたらない段階から投薬治療をするという臨床試験が、製薬企業により始まろうとしている。

週刊朝日 2013年12月27日号