その場にいるかのような臨場感のある「かたり」。12月11日には、永六輔さんと東京ドームホテルで野球について語り合う(撮影/写真部・工藤隆太郎)
その場にいるかのような臨場感のある「かたり」。12月11日には、永六輔さんと東京ドームホテルで野球について語り合う(撮影/写真部・工藤隆太郎)

 タレント・山田雅人(52)の演じる「かたりの世界」が人気を呼んでいる。著名人の一生やスポーツの名場面を、一人語りで再現する。

「かたり」は山田のオリジナル芸だ。作品1本につき1時間近く、臨場感あふれる口調でしゃべり続ける。

 そもそもバラエティー番組などで活躍していた山田。競馬ファンが高じて、ハイセイコーやオグリキャップという名馬の一生を物語にし、楽屋で共演者たちに披露していた。これが好評。すると評判を聞きつけた放送作家の高田文夫が、「野球はできないのか。競馬ファン以外にも関心を呼べるぞ」と後押ししたという。

 初作品はかつての西鉄ライオンズ(現西武)の大エースを語った「稲尾和久物語」だった。稲尾とは10年ほど番組で共演し、苦労話などをたくさん教えてもらっていた。

 稲尾が07年に亡くなると、09年3月に稲尾物語で「かたり」を始め、「江夏の21球」を次の作品に選んだ。79年の日本シリーズ、広島対近鉄の第7戦、伝説の最終回の攻防だ。

「当時18歳だった僕は、あの試合を、あの場面を、大阪球場で観戦しているんです。それ以来ずっと心に残り、再現してみたいと思っていました」

 その後は戦火に散った名投手沢村栄治氏や、阪神のバース、掛布、岡田による甲子園バックスクリーン3連発などを発表していった。高田はスポーツ紙のコラムで山田について、「話芸家」と名付けた。

「かたり」を作る上での特徴の一つが、山田本人による取材だ。「津田恒美物語」では、津田の妻や、山本浩二、山崎隆造の両選手、北別府学、大野豊の両投手、バッテリーを組んでいた達川光男捕手といった広島時代の同僚、そして高校時代の監督や同級生など可能な限り取材し、エピソードを盛り込んだ。

「江夏の21球」や「沢村物語」、「甲子園バックスクリーン3連発」も、同じグランドにいた選手や関係者らに取材を重ね、作品に生かした。

「作品を発表したあと、さらに関係者の方が『実はあの時はこうだった』という話をしてくれることが多いんです。それを次回の発表時に入れて作品を進化させる。だから毎回違った形になる。つまり『かたり』は生きているんです」

 もう一つの特徴が、台本を持たずに舞台に上がること。頭の中に浮かんだ順番にしゃべるのだという。

「舞台には頭を真っ白にして、ニュートラルの状態で臨みます。台本を暗記すると『この部分を飛ばした』なんて考えてしまう。材料をそろえたら、あとは自分流でやっていきます」

週刊朝日 2013年11月1日号