今も高濃度の汚染水が海に漏れ続けている福島第一原発(以下、フクイチ)。そして五輪が開催される2020年、フクイチはどうなっているのか。

政府と東電がまとめた廃炉へのロードマップ(工程表)を見ると、20年の夏はちょうど、溶け落ちた核燃料(溶融燃料)を取り出し始める時期と重なる。計画どおりなら廃炉に向けて大きく前進することになるが、現実は甘くない。日本原子力研究所で国内初の廃炉を指揮した原子力デコミッショニング研究会の石川迪夫(みちお)会長がこう語る。

「工程表どおりに溶融燃料を取り出せる保証はない」

溶融燃料を取り出すには、原子炉内を水で満たした上で、まずは燃料の場所を正確に特定する必要がある。現場は高線量の放射線で人間が近づけないため、調査用ロボットの研究開発が急務になるが、これが難題だという。まず、ロボットが完成するメドは現時点で立っていない。さらに石川氏がこう指摘する。

「特に1号機では、溶け出したウランは燃料棒を覆っていたジルコニウムや圧力容器の素材であるステンレスなどとぐちゃぐちゃに混ざって、合金になっていると思われます。たとえロボットが完成したとしても、どこにウランがあるのか特定することは技術的に非常に難しいでしょう」

そもそも、工程表は不確定要素だらけだ。格納容器を水で満たすためには、まず開いた穴をふさがなければならないが、これについては16年度下半期までに〈(止水)方法の確定〉とある。肝心の溶融燃料の取り出しも、18年度上半期の目標は〈燃料デブリ・炉内構造物取り出し方法の確定〉。

国内外で石油化学プラントの建設にかかわった経験を持ち、工程表を検証している「プラント技術者の会」の筒井哲郎氏が語る。

「方法自体をこれから決めると言っているわけで、具体性がない。誰がこの工程表を書き、誰が具体策を考えているのかもすべて匿名で、責任の所在も、途中経過も見えてきません」

より切迫した問題は汚染水だ。海への流出を早く止めないと、諸外国からの批判が高まり、五輪の開催自体が危うくなりかねない。筒井氏はこう断言する。

「廃炉作業と違って、汚染水問題はきちんと対応さえすれば、3年もすれば落ち着くはず。問題は、東電にその能力がないことです」

週刊朝日 9月27日号