「できないことではなく、できることを数えましょう」「あきらめなければ、自分自身の“金メダル”は誰にでも取れるんです」――。昨年秋、ロンドン・パラリンピックのゴールボールで金メダルを獲得した浦田理恵さん(35)の言葉には、誰の胸にも響く強さと優しさがある。20歳で光を失った浦田さんに迫った。

 1チーム3人で対戦するゴールボール。視力の差が影響しないようにアイシェード(目隠し)をする。コートは縦18メートル、横9メートル。攻撃側は鈴の入ったボール(重さ1.25キロ)を転がして相手ゴール(幅9メートル)を狙い、守備側は3人が体を投げ出してゴールを守る。当初は、海外遠征で相手の強烈な投球を脇腹で受け、肋骨(ろっこつ)が折れたこともある。ひるまずチャレンジを続け、守りが中心のセンターのポジションを勝ち取った。

「目隠しをするので、見えないことが逃げ道にならない。自分を言い訳のできないところに置いて、どこまでできるか。自分への挑戦でもあったんですね」

 視覚以外の感覚をフル稼働させる競技に取り組むことで、日常生活の距離感をつかめるようになった。

「地下街を歩くときは、自分の足音の反響音を聞いて、左右の壁からの距離を判断します。その真ん中を歩けば点字ブロックがないところでも大丈夫。通勤時間は徒歩20分なんですけど、お店の揚げ物やコーヒーの匂いでも、『ああ、あと60歩で左に曲がるんだな』なんて判断します。目で見ることだけが『見る』ということではないんです。音、匂い、気配……。いろんなもので『見る』ってことを、ゴールボールから学びました」

週刊朝日 2013年3月22日号

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