指揮をするときの体の動きの美しさがバレエダンサーのようと評判の女性指揮者・西本智実。そんな彼女が、少し変わった苦労話を作家・林真理子との対談で明かした。

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林:岩城宏之さんの『指揮のおけいこ』という本を読んだら。「客席のほうを向いて指揮すれば、顔がよく見えていいのに」と言われたことが何回もあるというようなことが書いてあって、思わず笑っちゃいました。『のだめカンタービレ』の千秋さん(指揮者)のおかげで、指揮者というのは全能の神みたいな人なんだということが、一般の人にもわかったみたいですよね。指揮者っていちばん偉くて、あらゆる楽器を完璧に弾けて、そういう人が最後に指揮に到達するんだということが。

西本:まあ、いろいろだと思います(笑)。楽器奏者出身で指揮者になられた方は多いですし、もちろん、ほとんどの方は楽器をやりますね。

林:西本さんもいろんな楽器を弾けるんですよね。10ぐらい弾けます?

西本:10はどうかわからないですけど、鳴らし方や音の範囲くらいは当然知っています。

林:不思議なことに、指揮者ってすごい力仕事で、西本さんがロシアに留学してまずやったことは、腕の筋力をつけることだったんですってね。

西本:「あと5キロは太ってくれ。筋肉をつけてほしい」と言われました。向こうの方は体が非常に大きくて、肺活量も全然違うんですよね。私が精いっぱいやっても、彼らの深い呼吸にはなかなか追いつかなくて、だから「もう少し鍛えてほしい」という注文がオケ事務所から来ました。

週刊朝日 2012年11月2日号