高齢化や過疎化が激しい田舎の集落に、空き家となって今も残る古民家だが、街からそこに移り住む人々がいる。人力社の和田義弥氏、阪口克氏が取材した。

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「日本の民家は美術品のようです。それを手掛ける大工は、高度な技術を持った職人で、また芸術家でもあるんですね」

 そう語るのは、築140年を超える古民家をリノベーションして暮らす、ドイツ人のカール・ベンクスさん。新潟県十日町市に住む建築デザイナーだが、彼の家は7寸(約21センチ)角のケヤキの柱や見付(高さ)1尺3寸、見込(厚さ)5寸の巨大な差鴨居(さしかもい)が存在感を放つ見事な家である。

 気密性は低く、冬の寒さは格別だ。建具のすき間から吹き込む風は冷たく、床や壁には断熱材など入っているはずもない。

 古民家に現代の住宅のような快適性はない。でも、素材の特性を生かして緻密に建築された家は、手入れをすれば100年でも、200年でも維持できる。地域の暮らしに根ざし、自然と一体となったたたずまいは美しい。その屋根の下では、何世代にもわたる暮らしが営まれてきて、家はそれを見守ってきたのだ。歴史と思い出が詰まった、まさに次の世紀の子孫まで暮らせる家なのである。

※週刊朝日 2012年3月30日号