立春は過ぎましたが、二月から三月にかけてまだまだ厳しい寒さに耐える日がありそうです。雪の中でも青々とした艶を放つのが緑の葉もの野菜たちです。筆頭は「小松菜」。関東ではお正月のお雑煮の青味として欠かせません。もう一つは「ほうれん草」でしょう。切り込みの入ったような菱形の葉は柔らかく、敬遠されがちな青くささより甘味が感じられるような気がします。寒さ厳しい時だからこそ新鮮な野菜の力をかりれば、元気に春を迎える準備をしていけそうです。

冬の青もの野菜の代表といえば「小松菜」

名付け親が八代将軍徳川吉宗、との説をもつのは「小松菜」です。江戸時代に青菜が栽培されていた小松川(現在の東京・江戸川区小松川)に吉宗公が鷹狩りにやって来たそうです。昼食の清まし汁の具に振る舞われたこの青菜をたいそう気に入ったところから「小松菜」と命名されたとか。緑鮮やかな青菜の入った清まし汁は、鷹狩りで走り回り汗を流した後の胃の腑に心地よかったことでしょう。

《小松菜のあをのしづめる祝ひ膳》 藤村克明

最近では広くハウス栽培が行われるようになり、1年を通してスーパーや八百屋の店先で目にする「小松菜」ですが、本来旬は冬です。寒さにも強く冬でもよく育つので「雪菜」や「冬菜」とも呼ばれ、青い野菜が不足しがちな冬の食卓では重宝な食材として大きな役割を果たしています。食してみればやはり旬の味わいは格別です。

《たっぷりの日差し吸ひ込み冬菜畑》 永井梨花

《月光に冬菜のみどり盛りあがる》 篠原梵

大地が枯れたように寂しい時、畑に緑を溢れさせてくれる「小松菜」の存在は、人々の心にも明るいものを投げかけているようです。

雪と小松菜
雪と小松菜

春へ、ほんのり紅色をもつ「ほうれん草」がつなぎます

雪の中でも青々と元気に育つ冬の野菜たちは頼もしい! おまけに甘味をもって美味しさを届けてくれます。冬の野菜がなぜ甘くて美味しいのでしょうか?

それは霜や雪にあたるからと言われています。野菜も寒さを乗り切るために頑張ります。寒さの中で凍ってしまうと野菜の細胞が壊れてしまいます。凍結対策は細胞内に糖分を溜めることだそうです。糖度があがれば甘さも増しますね。
洗いたてのほうれん草をそのまま食べてみました。特に茎の部分には予想外に甘味があり、これが冬野菜の旨味なのだと実感できました。

根っこが紅色、これも「ほうれん草」のちょっとした魅力ではないでしょうか?

《はにかみを根っこに溜めし菠薐(ほうれん)草》 森川光郎

「ほうれん草」実は春の季語なんです。雪の中に顔を出すのに春とは、とちょっと驚きました。思い出したのは八百屋さんの店先を眺めていた時のことです。小松菜のとなりにほうれん草が並び始めたとき、紅い根っこが目に飛びこんできて、なにやら華やいだ気分になったのです。冬の「小松菜」から春の「ほうれん草」へまだまだ寒さは続きますが、すこしずつバトンタッチが行われていたのだな、と。どちらも私たちの健康をしっかりと守ってくれる頼もしい野菜たちです。

根っこの紅いほうれん草
根っこの紅いほうれん草

色鮮やかな青菜を美味しく食べよう

寒さの中でもピンと張りのある葉は、食欲をそそると同時に気持ちを元気にしてくれます。火を通すといっそう鮮やかになる緑を生かした料理ができればいいですね。

《鍋蓋に丈のはみだすほうれん草》 高沢昌江

葉と茎では茹であがり時間も変わってきます。ほんの少し気を配り手をかけることで、野菜の歯ごたえを生かした仕上がりにすることができそうです。

《削り節をなか高に盛りはうれん草》 有賀昌子

おひたしや炒めものといった単品でも十分に美味しいのですが、緑色を生かすのはやはり取り合わせる食材の色。卵の黄色、茸類や豆腐の白、トマトの赤などは青菜と合わせることで見た目にも彩りのよい一皿ができあがります。

《匂ひ立つ若菜のパスタ赤ワイン》 白勢一間

若菜とともに匂い立つのは春の息吹かもしれません。深みのあるワインの赤も青菜と相性がよさそうです。

《はうれん草の紅ほの甘き夕餉かな》 小田明美

「ほうれん草」の根っこ、色ばかりかほんのりとした甘さまでも生かした夕食に喜びと満足が伝わってきます。今が旬と出まわる「小松菜」と「ほうれん草」、春へと私たちを元気よく連れていってくれそうです。

参考:
◆農林水産省 広報誌「aff 2023年1月号」
◆農林水産省 広報誌「aff 2019年12月号」

スモークサーモンとほうれん草のパスタ
スモークサーモンとほうれん草のパスタ