熟す前の緑が鮮やかな時は「青梅」といいました。ほんの少し毒になる成分があるといわれていますが、焼酎につけて梅酒にしたり、実をすり下ろし煮詰めてエキスにして身体によいものに変えてきました。その歴史は古く先人の知恵には驚かされます。固くかりかりとしていた青梅は入梅をすぎるとしだいに熟し黄色くなります。6月16日からは第二十七候「梅子黄(うめのみきばむ)」ころとなります。軟らかくなった梅の実は梅干しに、ジャムにと使い道はさまざまです。八百屋さんの店先にならんだ梅の実は、皆さんの知恵とアイディアを待っていますよ。

長い雨の時期の明るい存在!「熟した梅」

梅雨は昼間でも薄暗い日が多くなるものです。雨が降り続いても合間には小やみになり、薄く陽が差し込むことがあります。そんなときの日の光はたとえささやかでも、明るく感じられてうれしいものです。軟らかい青葉の中にふっくりと熟す黄色い梅の実は、太陽の姿が隠れがちな梅雨の時に明るい光をあたえてくれる「梅雨明かり」そんな気がしませんか?
熟した黄色い梅は酸味も和らぎ皮をむけばそのまま食べても美味しいものです。梅の皮をむいて壜に入れ、そこに砂糖をたっぷりかけておけばいつの間にかシロップが溢れるほどあがってきます。シロップを別にして残りの実に砂糖を足して煮込めば梅ジャムに。皮をむくのが少し手間ですが、他は手間いらずでシロップとジャムができる簡単レシピです。梅酒と違いアルコールのないシロップは、ソーダで割ったり氷水で薄めたりと、汗の季節にはごくごく飲める爽やか飲料になりますよ。ハチミツで作るシロップも健康によさそうですね。

雨の中で艶やかさを発揮するのは「花の色」

梅雨の花といえば「紫陽花」が一番にあがります。雨露をしたたらせた花の毬がゆれている姿は、梅雨が美しいものなんだと思わせてくれます。雨の中で咲く花をあでやかにしているのは、ころころと花や葉の上を転がる水滴ではないでしょうか? 光を集め拡散する水の粒は、明るい太陽の下に咲いているときとは違った美しさを演出してくれます。
5月に咲き始めた薔薇は6月に最盛期を迎え、雨の中でもきれいな花を咲かせます。ローズウォーターやエッセンシャルオイルを取り出すバラは、朝露に濡れた早朝からが摘み時とか。
「急坂になりて抱きし薔薇香る」 大高 翔
雨の中で甘い香りを放って咲いているのはくちなしです。くちなしの実は熟しても割れないことから「口無し」とついたそうです。純白にひらく花から香る清らかな匂いは、湿気を含んだ大気のなかにしっかりと広がります。
「薄月夜花くちなしの匂ひけり」 正岡子規
くちなしの実は染料として食品にも使われています。きんとんのサツマイモや栗が鮮やかな黄色に仕上がっているのは、くちなしの実が使われているからなんです。花の命はじつは計り知れないものなんですね。
じめじめとして鬱陶しいこの季節ですが、見まわしてみれば雨ゆえに美しく感じられるものもたくさんあるなんて、嬉しいですね。