数々のハイテク装備を秘めたヤモリボディーを大公開! 〈tenki.jp〉|AERA dot. (アエラドット)

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数々のハイテク装備を秘めたヤモリボディーを大公開!

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攻撃力もなく無害。でも高性能なボディの持ち主

攻撃力もなく無害。でも高性能なボディの持ち主

指に吸盤はないんです!

指に吸盤はないんです!

暗いところでも色がはっきり見えるなんて

暗いところでも色がはっきり見えるなんて

謎が多いところも魅力のひとつ

謎が多いところも魅力のひとつ

蒸し暑い梅雨から夏の時期、カエルの声を細くしたようなギョギョギョギョ・・・という高い鳴き声が聞こえてくるかもしれません。繁殖を促す雄のヤモリの声です。聞こえたら、すぐ近くにもヤモリがいるという証拠。ヤモリは人家近辺に多く棲む、トカゲに近い爬虫類の仲間。動きは遅く、生殖力も高くなく、攻撃力のありませんし無毒。なのにちゃんと生き残り個体数も多く、いたるところでたくましく繁殖しています。どうしてなのか。
調べてみると、彼らには知られざる超能力の数々があったのです。

ファンデルワールスフォース!ヤモリの壁のぼり忍術がすごかった

ヤモリが近縁のトカゲともっとも大きく違うのは、平たい地面ではなく、常に板塀や木などの垂直な壁、もしくは天井に張り付いていること。5階や10階程度の高さの建物も平気で登れるほどで、まさにリアルスパイダーマン、ボルダリングの王者といったところ。つるつるしたガラスにすら平気ではりついているので、長い間大きく広がってふくらんだ指先に細かな吸盤組織があると思われていましたが、彼らの指には吸盤はないことが近年の研究でわかってきました。ヤモリの接着の仕組みは2000年、科学誌Natureで発表されました。(Adhesive force of a single gechko foot hair. Nature 8 681-684, 2000)。電子顕微鏡でヤモリの指先を観察したところ、足の裏には吸盤ではなく細かな毛が50万本も密生しており、さらにその先端が100~1000本程度に分岐し、さらにそれらの先端のそれぞれは直径200ナノメートル程のスパチュラ(へら型)になっている、という超細密構造が判明。この細かなスパチュラ構造により、分子同士が吸着しあうときに発生する引力(ファンデルワールス力)と同じ作用を生じさせるのだそう。
ファンデルワールス力(Van der Waals force)とは、電荷を持たない中性の原子/分子間で働く凝集(吸引)力の総称で、気体が冷えて液体や固体になるのもこの凝縮力が作用するため。つまりヤモリは、カエルが吸盤で接着面の内側に真空を作り出したりカタツムリやナメクジなどが粘液分泌で吸着する方法とはまったく異なる、分子レベルのハイテク能力で壁やガラスに吸着しているのです。
このヤモリハンドの吸着力は生物応用化学に適用され、ヤモリテープなるものも開発、実用化されてきています。直径数ナノ~数十ナノメートルのカーボン・ナノチューブを1c㎡あたり100億本の密度でびっしり並べたもの。わずか1c㎡程度の面積のテープで500グラムを保持できるのだとか。これでもヤモリの接着力の8割強程度。そしてめくれば簡単に剥離でき、従来の粘着テープのように粘着剤が残ることはなく、テープ自体を繰り返し利用できるという優れもの。(日本経済新聞・「ヤモリの足」から生まれた最先端のテープ )
この技術は再生医療にも役立つ可能性があると考えられています。

テレスコープアイ!ヤモリの目は奇跡を映す

これだけで驚くのは早い。夜行性のヤモリの眼は闇の中で色つき画像を見ることが出来るのです。これがどうすごいかといいますと、目を持つ生物は錐体細胞と桿体細胞という二種類の細胞で視覚を得ていますが、桿体細胞は物体の輪郭・形状を識別する細胞。色彩は認識しませんが、暗がりでもよく働きます。夜目の効くフクロウや猫などは、桿体細胞が発達しています。一方錐体細胞は色彩を感知する細胞。しかし、色彩には色により波長の差があるので感度は低くならざるを得ません。というのは、色彩により波長が違うということは、網膜でピントが合う位置が色により違うということ。これを色収差といいます。普通は人間も、このわずかな色収差を脳内で修正してピントをあわせているのですが、もし色彩感知の感度が高すぎると補正する能力が追いつかず、輪郭がゆがんだりにじんだりぼやけたりして像をむすばなくなるためです。それを調整するには天体望遠鏡のような重厚長大な補正システムが必要。当然そんな巨大な調整構造を頭蓋骨内に収められるわけもなく、普通動物の視力は夜間は色彩感知ができなくなっています。
ところが夜行性のヤモリは、錐体細胞の感度が高く、その感度は人間の350倍。夜間の闇でも色彩を感知できるのです。ヤモリの目を研究したロス博士(Lina S V Roth)・ランドストローム博士(Linda Lundström)らによると、ヤモリの瞳は複数の焦点距離を持っていることが明らかになりました。その水晶体は非球面になっていて、位置により色彩の焦点距離を変えて補正をしているのだそうです( The pupils and optical systems of gecko eyes )。
ちなみに、この大きな目にはまぶたがないことを書きましたが、乾燥を防ぐためにヤモリはたびたび舌で瞳をぺろりとなめて潤わせます。これ、ヤモリの萌えポイントのひとつです。
近年ヤモリのゲノム(遺伝子)解析が進み、これらの能力が遺伝子により明らかになってきました。βケラチンの遺伝子数はワニが2、カメレオンが23に対して、ヤモリは71。この多数のケラチン遺伝子により、先述した吸着力のある毛を生み出しているようです。
また、光の感知力を高めるたんぱく質を生成する遺伝子型を持つことも判明。こちらは特殊な目の生成関連ですね。夜の生活に適応するために嗅覚も優れ、匂いの感知に関わる受容体を生産するための遺伝子は251個。これもカメレオンの約3倍にあたります。

まだ判明していない謎の能力もあり

ヤモリには、判明していない謎の能力もまだまだあります。トカゲと同様、ヤモリも尻尾を切断しておとりにする分身忍術を備えていますが、尻尾の再生能力についての遺伝子はまだ解明されていないよう。
筆者はヤモリの狩りを観察していたところ、蛾や羽虫を易々と場所を動かず捕食している様子を見て、何かしら虫を誘引する仕掛けを持っているのではないか、と感じました。動きが機敏ではない生き物、たとえばカエルやカメレオンなどは、長く伸びる舌を持っていて、これを伸ばして獲物を捕らえます。でもヤモリは伸びる舌ももっていないし、そもそもそんなものを必要としていないように見えるのです。まだまだ謎の能力が多く、解明が待たれます。
近年はヤモリにとって住み心地のいい古くからの日本家屋が減少、密閉性の高い住宅が多くなり、彼らには以前より住みづらい環境になりつつあるようです。それでもしぶとく、健気に生き続けています。ヤモリの一ファンとして、もし見かけても駆除したりせずに、無害有益な彼らをそっと見守ってやってくれるとうれしく思います。
参考文献・Nature Gekko japonicus genome reveals evolution of adhesive toe pads and tail regeneration


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