暴風雪や厳しい寒さに見舞われた1月。春の静かな兆しに、静かな期待が込められた2月の詩歌

2016/02/03 16:30

今が一年で最も寒さが厳しい時季と理解はしているものの、数十年に一度ともいわれる厳しい寒気は肌身にこたえます。 そんな季節だからこそ、歳時記には「寒し」「冷たし」などの季語が記されています。 ちなみに「冷たし」は「爪痛し」からきた言葉。なんとなく実感がありますね。 風も冷たく日が短く、身も心も縮こまりがちですが、そんな中にも詩情を見つけてしまう自由な詩のかたち、冬の俳句をご紹介します。

大寒波がもたらす雪・風・強烈な寒さに覆われた日本列島
大寒波がもたらす雪・風・強烈な寒さに覆われた日本列島
「爪痛し」の冬 永田耕衣の句は、北風に自分をたとえて吹きすさんでいるかのようです。 〈手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ〉高浜虚子 〈しんしんと寒さがたのし歩みゆく〉星野立子 〈大空に月ぶら下り雲凍(い)てぬ〉池上浩山人 〈北風や青空ながら暮果てゝ〉芝不器男 〈海に出て木枯帰るところなし〉山口誓子 〈寒風吹く何か面白き事無きやと〉永田耕衣 冬の月や星は冴え冴えとして美しいですね。まるで氷のようです。空気が澄んで、光が鋭く見えます。 〈寒月やいよいよ冴えて風の声〉永井荷風 〈天の原空さへさえややわたるらんこほりと見ゆる冬の夜の月〉恵慶法師 〈寒星や神の算盤(そろばん)たゞひそか〉中村草田男 冷たい冬の空気に言葉が火花を立ててぶつかるような、ちょっと不思議でシュールな歌句を挙げてみましょう。 〈冬乾く冬のレールにパンの耳〉秋元不死男 〈降る雪を仰げば昇天する如し〉夏石番矢 〈冬鴎わがペン先に来つつあり〉皆吉司 〈枯れ木に耳を当てれば 遠くオルゴール〉富澤赤黄男 〈冬の大三角形よ背伸びせよ〉坪内稔典 〈何ものの声到るとも思はぬに星に向き北に向き耳冴ゆる〉安永蕗子
雪と枯木/降りしきる雪
雪と枯木/降りしきる雪
冬来たりなば春遠からじ 雪や霜も多くの詩歌に詠まれています。 正岡子規の句は、一見何でもない句のようですが、子規の境遇を知れば胸に迫ります。 〈いくたびも雪の深さを尋ねけり〉正岡子規 〈海の中鯖青くして雪止みぬ〉平畑静塔 〈雪を来て少女等の語尾舞ふごとし〉加藤楸邨 〈かん酒や深雪とならん深雪になれ〉渡邉白泉 〈月光をさだかに霜の降りにけり〉松村蒼石 春はまだ遠いのですが、「冬来たりなば春遠からじ」(冬が来たのだったら、春ももう遠くないはずだろう)の言葉もあります。 〈白葱のひかりの棒をいま刻む〉黒田杏子 〈「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ〉俵万智 〈冬の土こごりきびしくなりにけり球根を埋めてにじむもの待つ〉北原白秋 ── どれも厳しい寒さを詠んだ冬の詩歌ですが、そこには春の静かな兆しへの期待がひめているようです。
7年にわたる結核との闘病の末、34歳で死去した子規
7年にわたる結核との闘病の末、34歳で死去した子規

あわせて読みたい

  • 2月の詩歌──“爪痛い”空気と、高まる春への期待

    2月の詩歌──“爪痛い”空気と、高まる春への期待

    tenki.jp

    1/31

    6月の詩歌 ── 昼寝がしたくなる梅雨の季節

    6月の詩歌 ── 昼寝がしたくなる梅雨の季節

    tenki.jp

    5/31

  • 光あふれ、さわやかな風薫る ── 5月の詩歌

    光あふれ、さわやかな風薫る ── 5月の詩歌

    tenki.jp

    5/3

    冬の夜。澄んだ月の光と雪と~平安文学に見られる冬の夜~《前編》

    冬の夜。澄んだ月の光と雪と~平安文学に見られる冬の夜~《前編》

    tenki.jp

    12/19

  • 5月の詩歌 ── 風薫る新緑の季節に寄せて

    5月の詩歌 ── 風薫る新緑の季節に寄せて

    tenki.jp

    4/30

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

コメント

カテゴリから探す