第57回 『ピック・ヒッツ・ライヴ』ジョン・スコフィールド |AERA dot. (アエラドット)
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第57回 『ピック・ヒッツ・ライヴ』ジョン・スコフィールド

文・林建紀

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 ビル・フリゼール(1951年生まれ)、ジョン・スコフィールド(51年生まれ)、パット・メセニー(54年生まれ)を当代三大ギタリストとすることに異論はなかろう。ともに初老の域だが、悪しき円熟とは無縁の瑞々しい感性を誇り、異彩を放つサウンドで刺激を与え続けてくれている。共通するのはやすやすとジャンルを超える柔軟性だろう。それぞれがビル・フリゼールというジャンル、ジョン・スコフィールドというジャンル、パット・メセニーというジャンルを打ち立てたとすら思える。こうした柔軟性はギターの汎用性に由来するのではないか。世にギター族なるものがいて、弾くにせよ聴くにせよ、ギターであればジャンルを問わない。3人とも、とにかくギターを弾くのが好きで好きでたまらないといった感じだ。また、管楽器にはおよばないが抱えるだけに一体感がある。彼らは初めてギターを抱えた「ギター小僧」の感激と感触をもち続けているように思う。

 ジョン・スコフィールド(以下、ジョンスコ)の初来日は1977年7月、日野皓正のカルテットの一員だった。その際にメンバーの助演を得て東京で初リーダー作『ジョン・スコフィールド』(Trio)を吹き込んでいる。デビュー3年目の新人にその機会を与えた我がレーベルの英断は誇っていい。新録にせよ復刻にせよ、当時の我がレーベルは世界に冠たる制作力を誇っていた。1982年にマイルス・グループに迎えられて頭角を現し、85年8月の来日公演後に退団、翌年にデニス・チェンバース(以下、デニチェン)らと自己のグループを結成する。推薦盤はグループの結成から1年余り、1987年10月の来日公演でライヴ収録された。ライヴ・イン・ジャパン名盤選を超えて、史上のジャズ・ライヴ名盤100選に入れてもおかしくない熱血奮闘傑作ライヴだ。初めて聴いたときの「これ以上のものが出るのだろうか」という傑作がゆえの悲観的観測は今も変わらない。

 三重に傑作である。第一に、ジョンスコにとって傑作だ。ディストーションを効かせて長く暗く曲がりくねった道を駆けるジョンスコはいずこへ。セミアコの芯のあるピュアなトーンで、間を活かし、音程も律動も一定の振幅で揺るがせ、スケールアウトを駆使し、時に熾烈に駆け巡り時に繊細に紡いでいく。伸びやかでメリハリが効き説得力を増した。そもそも特異なスタイリストだったが、ここで歓迎すべき完成を見たとしていいだろう。第二に、デニチェンにとって傑作だ。ド級のパワーと手八丁足八丁の凄技の連続に驚愕、気がつけば彼に耳を奪われていて、本作がリーダー作ではないことを悔やむ方さえある。第三に、グループとしての傑作だ。結成から1年余り経ち、その一体感がピークに達していたとすれば、まさに好機というほかない。然り、全員一丸となった力感とグルーヴ感は「絶頂期の勢い」というものの凄みを実感させる。熱血奮闘傑作ライヴに掛け値なし!

 一度、本作をトレイにセットすると多くが最後まで聴き通すことになるのではないか。フュージョン風に響くが能天気な快適さとは無縁、グループの立ち位置を示すウォーム・アッパー《ピック・アンド・パン》、デニチェンの超絶技に耳がいきがちなミディアム・ファンク《ピック・ヒッツ》、内なるエモーションをブルージーに綴るスロウ・ナンバー《ヘヴン・ヒル》、デニチェンが技を総動員、ジャズのスリルに満ちた《プロトコル》、腰も揺れだすキャッチーなミディアム・ファンク《ブルー・マター》、ブルース魂横溢、川面をたゆたうように心地よいスロウ・ナンバー《サンクス・アゲイン》、デニチェンの頭脳的プレイとジョンスコの果敢な攻撃に感嘆しきりのシリアス・ファンク《トリム》、リビングで爪弾くようにパーソナルなソロ・ナンバー《我が心のジョージア》、華やかなミディアム・ファンク《メイク・ミー》と続き、筆者は73分一気通貫を免れなかった。

 テクニックやサウンドにフュージョンの成果を活かしていても、ストレートアヘッドなアプローチから生み出されるシリアスでスリリングな音楽のコアは紛れもなくジャズだ。長らく再発されていないが入手難ではない。是非、コレクションに加えてほしいと思う。[次回12/21(月)更新予定]


【収録曲】
Pick Hits Live/The John Scofield Band

1. Picks and Pans 2. Pick Hits 3. Heaven Hill 4. Protocol 5. Blue Matter 6. Thanks Again 7. Trim 8. Georgia on My Mind 9. Make Me

Recorded at Hitomi Memorial Hall, Tokyo, on October 7, 1987.

John Scofield (g), Robert Aries (key), Gary Grainger (el-b), Dennis Chambers (ds).

【リリース情報】
1987 LP/CD Pick Hits Live/The John Scofield Band (US-Gramavision)*1
1987 LP/CD Pick Hits Live/The John Scofield Band (Eu-Gramavision)*1
1987 LP/CD Pick Hits Live/The John Scofield Band (Jp-Gramavision/Pony Canyon)*1
1990 CD/CT Pick Hits Live/The John Scofield Band (US-Gramavision/Rhino)
1993 CD  Pick Hits Live/The John Scofield Band (Jp-Gramavision/TDK)
1994 CD  Pick Hits Live/The John Scofield Band (US-Gramavision/Rhino)
1996 2CD  Pick Hits Live/The John Scofield Band (Jp-Gramavision/Videoarts)*2

*1: LPにTracks 7-9は未収録。
*2: [Disc 2]に未発表3曲収録。


※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。


(更新 2015.11.30 )


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プロフィール

林 建紀(はやし・たつのり)

 ジャズ研究家/翻訳家。com-post同人。1950年生まれ。同志社大学軽音楽部出身。著書に『週刊ラサーン ローランド・カークの謎』(プリズム・ペーパーバックス)、訳書に『ローランド・カーク伝 溢れ出る涙』(河出書房新社)、共著に『JAZZ TRUMPET』『JAZZ PIANO』『JAZZ SAX』(シンコーミュージック)、『読んでから聴け! ジャズ100名盤』(朝日新書)などがある。Twitterのアドレスはhttps://twitter.com/#!/tahsaan_h

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