帯には<20万部突破!>の文字。佐藤愛子『気がつけば、終着駅』は昨年12月刊。今年97歳になる作家のエッセイ集だ。『九十歳。何がめでたい』がミリオンセラーになったのは2017年。<毎日のようにインタビューを受けなければならなくなりましてね。四十代で直木賞を受賞した後と同じくらい忙しい日々を九十五の婆さんが過ごしたんですから、身体にこないほうがおかしいんですよ>

 そりゃあインタビューも殺到するでしょう。90代で放ったミリオンセラーですからね。

 もっとも本書はいわば佐藤愛子のクロニクルで、1960年代にはじめて書いたエッセイなども収録されている。<私は再婚者である。/約十四年ほど前に離婚し、それからほぼ七年の後に再婚した。三十二歳の時である>。これが初エッセイ「再婚自由化時代」の書きだし。

 戦時中、20歳で最初に結婚した相手は戦地から帰るとモルヒネ中毒になっており、別居の末に死別した。次の夫は5歳下の文学仲間だったが、12年目に破産し、数千万円の借金を彼女が負うかたちで離婚した。

 バツイチなんてカジュアルな言葉はなかった時代だ。

<わが国には<出もどり>という言葉がある。それから<嫁きおくれ>という言葉がある。それからまた<二度目>という表現もある>。こうした語を使う際には声を潜めて<「あの方、二度目ですって……」>。

 そんな昔の話から最近のエッセイやインタビューまで。時折挟まる言葉は佐藤愛子らしい名言の宝庫である。<「すてきに年を重ねたい」なんていったって、その向こうに老残と死が、いやでも待っているんですよ>(84歳)。<寂しい? 当り前のことだ。人生は寂しいものと決っている。寂しくない方がおかしいのである>(85歳)。<私がいまほしいもの? 何もないですね>(88歳)。<今度は、『余計なお世話』っていう本を書こうかしら>(92歳)。それはもうぜひお書きになって!

週刊朝日  2020年10月2日号