書評『禁欲のヨーロッパ 修道院の起源』佐藤彰一著 |AERA dot. (アエラドット)

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《新書の小径 (週刊朝日)》

禁欲のヨーロッパ 修道院の起源 佐藤彰一著

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青木るえか#新書の小径

ふと禁欲の生活に入りたくなる

 大塚ひかりの『本当はひどかった昔の日本』を読んで「いやー昔はいろいろムチャクチャだった」と思っているところにコレを読んでしまって「昔がひどかったのは日本に限らず!」と思った。
 この本は4世紀からのローマやギリシアの禁欲の生活について書いてあるんですが、のっけの「子供が生まれてから数カ月の育てられ方」で驚かされる。板に縛りつけて包帯ぐるぐる巻きにするとか。全身纏足か! 「ローマの赤子はまるで本物のミイラのような姿で、一切の自由な動きを奪われ、美しい(とローマ人が信じた)体形と顔形を得るために、二ヵ月半かそれ以上を過ごすのである」と歴史学者は書いている。その様子を写した粘土像の写真も出ていて、こりゃてっきり死んだ赤ん坊の棺桶かと思ったですよ。
 性行為の意味についても深く考えられていて、古代ギリシア人は、呼吸が血液に乗って体中をめぐりめぐるうちにどんどん濾過され純化されて最後に睾丸で精製されて精液となって出る……と考えていた、などという話は感心してしまう。すごく実感に溢れている。で、その大事な精液をきちんと使うべく、やり方を細かく説く。「男性の同性愛はより暴力的であり、したがってより大きな疲労をもたらすので、異性愛のほうが健康によりよい」などと断言されると「そうとばかりも言えないのでは……」とつぶやきたくなるが、でもあまりの威風堂々さに呆れて物も言えず。
 こういう世の中だったからこそ「禁欲」という考え方も出てきたわけで、主にキリスト教における禁欲の有様が描かれる。この時代の修道士の暮らしっぷり、私が主に注目するのが食事である。最高のご馳走はパンに油を垂らしたものですって。そういうなかで、「パンにしばしば無花果が添えられた」とかいう文が出てくると、やけに美味しそうなのである。ふと、そういう生活に入ってみたくなる気すらする。でも私は現代人で昔よりマシな思想と生活があるので踏みとどまるのである。

週刊朝日 2014年3月21日号


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