書評『いつも手遅れ』アントニオ・タブッキ著/和田忠彦訳 |AERA dot. (アエラドット)

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《話題の新刊 (週刊朝日)》

いつも手遅れ アントニオ・タブッキ著/和田忠彦訳

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西條博子#話題の新刊

いつも手遅れ

アントニオ・タブッキ著/和田忠彦訳

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 近年、68歳で亡くなったイタリアの作家による書簡体小説。差出人の異なる男性の17通の手紙と、取次会社の女性による事務的ながらも文学的な一通の返信で構成される。
 「いとしいきみへ」「いとしのオフィーリア」「ぼくのかわいい、苦しむひとへ」──。別れた、あるいは離れた場所にいる愛する人に宛てて、男性が昂揚して手紙を綴る。クレタ島、プロヴァンス、ロンドン、ポルトなど、かつて愛するひとと訪れた土地が記憶の発火装置となって思いが溢れ、読者は手紙にひそむ絵画的かつ音楽的な幻と退廃に身をゆだねることになる。過去に釘づけにされて苦しむ男性陣の手紙はどこか破綻しており、行くことのなかった旅の細部さえもが鮮明に描かれる。名の知れない手紙の差出人らによる記憶の袋小路。それらを葬り去るのは、最後の「お客さま各位」に宛てた通達だ。
 思索の広がりによって記憶は増築され、断片的で継続性のない時間を生み出す。手紙の差出人は100年前の「きみ」を見たり、老いから若返ったりする。果てしなく展示の続く美術館に迷い込むような小説だ。

週刊朝日 2014年1月17日号


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