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伝え方が9割
2013/06/05 15:34
昔から「物は言いよう」という言葉があって、たとえば『広辞苑』では「同じ物事も話し方によってよくも悪くも聞こえるものだ」と説明されている。誰もが知っている、いわば常識に属することだろう。
佐々木圭一の『伝え方が9割』に書いてあることも、このごく常識的なことである。わざわざ言われるまでもないことばかり。だが、その誰もが知っているようなことを書いた本がこんなに売れるのは、まさに本書の「伝え方」による。とりわけタイトルが成功。本書は、売れているという事実によって、伝え方が大事だということを実証した。それが「9割」かどうかはともかくとして。
書かれているのは、たとえばこんな具体例だ。
好きな人をデートに誘うとき、「デートしてください」と言うよりも、「驚くほど旨いパスタの店があるのだけど、行かない?」と言ったほうが、成功する確率がぐんと上がるというのだ。
たしかに著者の言うとおりだと思うが、よく考えると、たんに「伝え方」だけの問題ではなさそう。「デートしてください」とストレートに言う人の、いわゆるキャラと、旨いスパゲティ屋があるからと誘う人のキャラはずいぶん違う。「デートしてください」と直球しか投げられない人が、スパゲティ屋に誘うという変化球を投げられるようになるためには、それなりのキャラづくりやトレーニングなりが必要だと思う。スパゲティ屋を「パスタの店」と言い換えたり、「驚くほど旨い」なんていう言い回しを真顔で使えるようになることを含めて。ぼくには無理かもしれない。
そう考えると、「物は言いよう」というありふれた常識も、いざ実践しようとするとなかなか奥が深い。伝えたいことが伝わらなかったからといって(一応そういうことにしておこう)、「メディアの大誤報」などと責任転嫁する政治家のいる昨今だからこそ、とくにそう思う。
週刊朝日 2013年6月14日号
伝え方が9割
佐々木圭一著


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