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20世紀の科学技術は、戦争の影響力の拡大に格段の進歩をもたらした。それまでの戦争に比べて、より効率的に破壊し、大量に殺戮することが可能になったのである。敵地への打撃を最大限にするため、被害は当事者同士の戦闘に限定されることなく、非戦闘民へも広範に及ぶこととなった。ナチスのガス室、広島・長崎の原爆、ベトナムでの枯れ葉剤、ラオスのクラスター爆弾など、こうした例は枚挙に暇がない。沖縄戦のように市民が戦闘にかり出された例もある。
大石芳野は、はじめ民族学的な興味から南洋の原住民の生活に接して撮影を始めたが、やがて同じ場所に、より喫緊の、切実な問題があることに促されて、戦地における非戦闘民が被った被害に寄り添い、戦後も長く続く影響を掘り起こしながら記録を続けてきた。大石はいわゆる戦争写真家として、戦闘や殺戮の光景を撮ることはしない。戦況がいくらか落ち着いた後に現地に入り、そこで暮らす人々がその後どのように傷を抱え苦しみながらも生きていくかに注目し、長い時間をかけて、何度も接しながら取材している。それらの作品を通して、心身にもたらされた戦争の刻印を消すことの難しさを、私たちは知ることになる。
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